スペシャルズの過去と現在、そして未来が炸裂する驚異の新作

ザ・スペシャルズ『アンコール』
発売中
ALBUM
ザ・スペシャルズ アンコール

今年でデビュー40周年を迎えるザ・スペシャルズの18年ぶりとなる新作。08年からライブ活動を続けている現在のバンド、つまり、テリー・ホール、リンヴァル・ゴールディング、ホレス・パンターらを中核にしたラインナップのもの。現在のスペシャルズの活動は世界中のロック・シーンに衝撃をもたらした79年のファースト、そのサウンドを意欲的に拡大していった80年の『モア・スペシャルズ』の両アルバムの世界観を、純粋にかつ意識的に伝えるもので、それにどこまでもかなう新作となっている。

冒頭の“Black Skin Blue Eyed Boys”はいきなりファンク・ビートとして幕を開ける驚きの展開だが、これはイギリスが生んだ黒人と白人の混合ファンク・バンドでその後ソロとしても大ブレイクする、エディ・グラントが率いていたザ・イコールズへのオマージュとなるカバー。つまり、このバンドの成り立ちとメンタリティの起源にまで遡るものでとても感慨深い。そのままファンク・グルーヴとともに突入するのが新曲の“B.L.M”で、これはアメリカでの白人警官による黒人市民の殺害などの暴力への抗議を訴える「ブラック・ライブズ・マター」をイギリスの問題として打ち出すもの。リンヴァルのジャマイカ系家族の背景と家族が受けてきた差別と抑圧が明かされる曲で素晴らしい新境地となっている。

逆に、このバンドのディープなレゲエやダブの素養を示すものとして、ザ・ヴァレンタインズのカバー“Blam Blam Fever”が取り上げられている。この曲はサウンドはもちろん、このバンドの持つ鋭い社会性や政治性、そしてそれをどんなことがあってもユーモラスな形でのみ伝えていくという彼らの基本姿勢の起源を明らかにするものでもあって、40周年記念にふさわしいオマージュを堪能できる内容になっている。そんなサウンドに独特のヨーロッパ的な憂いを重ねた“Vote For Me”などはまさに『モア・スペシャルズ』の世界観そのもの。スカやレゲエ、あるいはダブにイギリス特有のブルースの憂いを託すという、スペシャルズだけが成し遂げた偉業を体現しており、この新作の存在意義ともいえる名曲。こんな新曲が聴けて端的に嬉しい。そして、テリーとリンヴァルがネヴィル・ステイプルとともに81年の脱退後にファン・ボーイ・スリーとして発表した“The Lunatics”が今回あらためて聴けるのも嬉しい。デラックス盤ではライブ音源も収録されている。こちらでは往年の名曲もライブ・ベストとして堪能できて最高! (高見展)



『アンコール』の詳細はUNIVERSAL MUSICの公式サイトよりご確認ください。

ザ・スペシャルズ『アンコール』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

ザ・スペシャルズ アンコール - 『rockin'on』2019年3月号『rockin'on』2019年3月号
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