luki/渋谷LUSH

luki/渋谷LUSH - All photos by 木村泰之All photos by 木村泰之

●セットリスト
01. LA DOLCE VITA
02. 黄昏のダンス
03. ACTRESS
04. EPILOGUE
05. UNDERSTUDY
06. 真夜中の散歩
07. FAKE
08. 空色の部屋
09. たかが1000年
10. ハイエナ
11. その瞬間、見えた風景。
12. 麦わら帽子
13. 孤独を抱きしめ空を仰ごう
(アンコール)
01. 女子ウォーズ
02. WITHOUT MY UMBRELLA


3月28日リリースの通算4作目となるフルアルバム『ACTRESS』を携えた、待望のワンマンライブ。女性を演じ、生きることの終わりのない格闘を、この上なく風通しの良いポップミュージック集として記録してみせたシンガーソングライター=lukiである。アレンジャーでもある円山天使(G)、山本哲也(Key・G)、張替智広(Dr)というお馴染みのバンドメンバーに続いて姿を見せたlukiは、髪に可愛らしいリボンを付け、衣装の快活な色使いも目に鮮やかだ。

luki/渋谷LUSH

オープニング曲は新作同様に“LA DOLCE VITA”だが、ワウギターの絡むサウンドは力強くファンキーで、ハスキーボイスが主旋律をくっきりと浮かび上がらせる。空虚な退廃と諦観の滲む時代のムードに、生き生きとした躍動感を与えるようだ。甘くトロピカルな“黄昏のダンス”には、得意のブルースハープも柔らかくなびいて耳をくすぐる。新作『ACTRESS』は、ソウルやジャズ、ラテンポップなど、古今東西のガールズポップに込められてきた女性たちの息遣いが伝う作品だ。lukiとバンドは、ハーフエレクトロニックの現代的なサウンドで、そこに新たな意味を見出してゆく。

luki/渋谷LUSH

lukiは、大ぶりなイヤリングがすぐに外れてしまう、と苦笑しながら(普段はイヤリングもピアスもしないそうだ)、娘として妻として母として、生涯役割を演じなければならない女性たちの思いを新作に込めたことを語る。続けざまに披露されてゆく新作曲は、あるときは優しく儚げな表情を見せてはいるけれども、その裏側には強い情念に支えられたタフな魂を浮かび上がらせている。表層だけではない、女性性の本質を捉えた素晴らしい楽曲ばかりだ。

luki/渋谷LUSH

幼少期から劇団で活動していたと語るlukiは、主役の代役=アンダースタディとして稽古場に足を運び続けていた経験を語り、そのときの思いを綴った“UNDERSTUDY”を歌う。自身の存在価値を問う思考と感情が、音に乗って押し寄せてくるようだ。『CUT』誌で新作のインタビューを行ったとき、彼女は「これまでいろんなことを勉強してきたけれど、ひとつも役立っていなかった」と語っていたが、僕はそんなことはないと思う。彼女の経験に裏打ちされたエモーショナルな歌は、少なくとも過去に負けない彼女の現在地を映し出し、思いを共有させてくれる。

luki/渋谷LUSH

重厚なフォークサウンドの中、変身願望とアイデンティティのギャップに苛まれる“FAKE”。そして、息苦しさと焦燥感に身悶えるさまを、美しく歪んだギターサウンドと共に描き出す“空色の部屋”。確かに女性的と言えば女性的な歌の風景だが、それは男性である僕にも痛烈に響き、心を揺さぶられる楽曲たちだ。物語を共有させるソングライティングに加え、新作リリースから2か月の間に練り上げられたアレンジも、彩り鮮やかでありながらタイトに引き締まっている。

luki/渋谷LUSH

『CUT』誌で映画の連載コラムを執筆しているlukiは、マーティン・マクドナー監督・脚本作品『スリー・ビルボード』の素晴らしさについて熱弁を振るいながら、映画は小さな画面で観るよりも、劇場の大きなスクリーンで観た方が3倍も4倍も感動する、と持論を展開してみせる。また、ワイルドに駆け抜ける“ハイエナ”を披露した後、彼女は他界した父への複雑な心情を語り、抜き差しならないシリアスな記憶に触れる前作アルバムのタイトル曲“その瞬間、見えた風景。”を歌う。親子の関係という「役割」の中を生きてきた彼女の思いもまた、記憶に押しつぶされまいと闘っていた。

《哀しみは明日を生きる力 痛みは誰かを愛す力》。力強く突き抜けるメロディを歌い上げる“麦わら帽子”は、lukiの音楽に宿された反骨精神を端的に表している。そして、6月にウルトラマラソン「柴又100K」に挑むというlukiは、かつて初めてのウルトラマラソン出場で、見知らぬ人が応援してくれたことの体験が、以前とは異なる歌を書くきっかけになった、と“孤独を抱きしめ空を仰ごう”でライブ本編を締め括る。豊かな音楽とエピソードトークが織りなす、濃厚なステージであった。

luki/渋谷LUSH

さてアンコールでは、円山天使がボトルネックスライドの燻るようなブルースを披露する間に、lukiはアクティブな装いで再登場し、ブルースハープを吹き鳴らしてセッションへと持ち込む。チープな打ち込みビートに痛快なメッセージが映える“女子ウォーズ”を披露すると、彼女は次なるワンマンライブ「夏休みの宿題は今日終わらせます」(8月17日 @渋谷LUSH)が決定したことを告知して、「心の宿題を解消しましょう!」と呼びかける。最後には、ガーリーで奔放なシティポップ“WITHOUT MY UMBRELLA”を披露し、美しく、逞しく生きる魂の余韻を残してゆくのだった。(小池宏和)
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする