三浦大知/日本武道館

三浦大知/日本武道館 - 3月13日大阪城ホール公演より3月13日大阪城ホール公演より



昨年から行われていた三浦大知の全国ツアー「ONE END」。2019年には、マリンメッセ福岡、日本武道館、大阪城ホールでのアリーナ公演が追加され、3月13日、いよいよこのツアーもファイナルを迎えた。他では体感したことのない、三浦大知だからこそ表現できた芸術であり、しかし振り返って思い出してみれば、「歌」と「音楽」がそれぞれのシーンとともに記憶にしっかりと焼き付けられた、圧巻のライブだった。というわけで、筆者が観た2月16日の日本武道館公演で感じたことなどを書いてみる。
三浦大知は序盤、「音楽でつながって、一緒に最高のライブを作りたい」と、客席に向けて伝えた。武道館のアリーナ中央に設えられたセンターステージ。それを360度、スタンドも含め観客がぐるりと取り囲む形で、バンドは各パートが円形に客席のほうを向いてセッティングされていて、ステージ中央は広く開けている。フレキシブルに可動するステージは、回転やせり上がりなど、舞台全体の動きも含めて、そこにひとつのアート空間を出現させていた。

三浦大知/日本武道館 - 3月13日大阪城ホール公演より3月13日大阪城ホール公演より
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オンタイムにバンドメンバー全員が登場し、SE的に演奏をスタートさせると、会場中がハンドクラップで三浦の登場を待ちわびる。ダンサーたちもステージに集まり、ヘヴィなギターサウンドが鳴り響く中、一瞬のブレイクの後、中央のせり上がりから三浦大知が登場。スクリーンにその姿が大映しになり、表情を隠していたパーカーのフードをスッと脱ぐと、大きな歓声が会場中に響いた。スタートのナンバーは“Be Myself”。初っ端からいきなりのクライマックス感。「Be Myself!」を会場中が叫ぶ。三浦のダンスはオープニングからものすごい引力で私たちを引きつけていく。そこからはもう一瞬たりとも目を離すことができない。めまぐるしく移りゆく美しい景色が歌と音楽とともに脳裏に刻みつけられていくような、そんな瞬間の連続だった。完璧に構築されたプログラムのようでありながら、その時々のエモーションがダンスに、歌に、演奏に生々しく反映されていく。この鮮烈な「体験」は、言葉にするのがなかなか難しい。

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例えば《晴れた日よりも雨の日が好きで》、《「まぶしくて目を閉じている間に、/大事なものをもし見過ごしてしまったら嫌だから、/太陽より、私は月が好き」》と歌う“硝子壜”の、ダンサーの足元から聞こえる雨音を思わせるタップ音だったり、スローバラードから8ビートへとテンポがチェンジする時の感情の移り変わりだとか、あるいは、熱いシャウトとダンスから静かなエンディングへと向かう、その孤独感だったりとか。すべての動きや、音に表情があって、ステージにいる全員が同じ気持ちを共有しながら、同時にひとつの絵を描いていくような瞬間。それは、客席からステージを観ている我々とて例外ではない。心の動きをハンドクラップで、シンガロングで、こらえきれずスクリームする言葉や思わず体が揺れてしまう自由なダンスで、その空間の景色を作り上げていくのだ。「ONE END」というツアータイトルの意図もそこにある。
「『ONE END』というタイトルには『片方の端』という意味があります。今日は片方の端を僕らが、そしてもう片方の端をみなさんがつかんで、つながりあいながら一緒に最高のライブを作りたいと思います」。
三浦はライブの中盤でこのツアーのテーマをこう語ってくれたのだった。

三浦大知/日本武道館 - 3月13日大阪城ホール公演より3月13日大阪城ホール公演より
三浦大知/日本武道館 - 3月13日大阪城ホール公演より3月13日大阪城ホール公演より

その言葉の通りのライブだった。ステージから放出される歌とダンスのエネルギーを会場中がダイレクトに受け止めて、その感動をクラップやジャンプや腕の振りで純粋に返していく。水を打ったような静けさで歌に聴き入る時だって、それは全員でその空間を作り上げている瞬間の景色だ。この日のこの時間に、確かに私たちはそこにいるということ、傍観者ではなく当事者であるということを、このライブを通じて三浦は伝えようとしていたのかもしれない。だからこそ私はこの日のライブを「体験」だと感じたのだろう。“FEVER”では、ゆったりとしたリズムで客席にクラップを促し、その人力ビートに合わせて三浦が歌い出す。響いているのはクラップの音だけ。その音に彼の美しく伸びやかな歌声が乗る。そこにバンドサウンドが混ざり、打ち込みのビートも加わって、もちろん会場のクラップも鳴り止むことはなく、全員がひとつの音楽を作り上げているという確かな感覚がそこに在った。

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“ふれあうだけで ~Always with you~”で聴かせたピュアなラブソングは、広い会場なのに、三浦大知の体温までもが隅々に伝わるような歌声だったし、“世界”のギター弾き語りは、素朴なアコギの響き、ひとつひとつに思いがこもっているようだった。楽曲ごとに様々な感情をその歌声、その動き、その表情とで表現していく時間は、「生」そのものを描いているようでもあり、ああ、だからこそ傍観者ではいられないエネルギーが客席からも生まれるのだと思った。三浦の歌唱や、ダンサーたちを含めたダンスパフォーマンスはもちろんのこと、この日のバンドのサウンドも実に素晴らしかった。放射状に放たれていくアンサンブルの豊かさもまた、「生」の躍動を明確に体現していた。

三浦大知/日本武道館 - 3月13日大阪城ホール公演より3月13日大阪城ホール公演より
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“Black Hole”での無音ダンスにしても、深淵な静けさの中にありながら、ステージ上のダンサーたちだけでなく、オーディエンスの頭の中にも確実に「音」や「ビート」が描かれていたことだろう。観て感動するというだけではなく、そこに心を寄せて自分の中にも同じ音を描いてみる。そんな能動的な静けさに気づいた時、三浦大知のパフォーマンスはより一層深く心に沁みてくる。まさしく「ONE END」がこちら側にあって、同じ時間を共有する喜びそのものだ。ライブが進むにつれて、どんどんその実感が強くなっていく。“Darkest Before Dawn”で描いた、360度のシンガロングの光景も忘れられない。それに呼応するかのように三浦のロングトーンが圧倒的な説得力で響き渡る。客電が点く。全員がそこに「いる」こと、そして自分もそこに「いる」ことを実感する。「最高です!」と三浦大知は叫んだ。

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三浦大知というアーティストの、歌、そしてダンスに対する思いの深さを思い知るようなライブだった。シンプルに歌声の素晴らしさ、楽曲の楽しさや切なさを感じられるステージでありつつ、そうした受動的な感動だけではなく、あの日あの場で強く心を動かされた「自分」が、今ものすごく記憶に焼き付けられている。それほど「生」を感じるライブであり、人が心を動かされた時、「ONE END」としてそのエネルギーは確実にまた一方の誰かの心も動かしていくものであるということと、それは途切れることなく続いていくのだということをはっきりと感じられたライブだった。もうすぐ1ヶ月が経過しようというのに、まだその記憶は色濃い。(杉浦美恵)

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※写真は2019年3月13日(水)大阪城ホールにて撮影されたものです。
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