My Hair is Bad/横浜アリーナ

My Hair is Bad/横浜アリーナ - All photo by 藤川正典All photo by 藤川正典

●セットリスト
1.惜春
2.グッバイ・マイマリー
3.18歳よ
4.微熱
5.愛ゆえに
6.接吻とフレンド
7.真赤
8.悪い癖
9.運命
10.卒業
11.アフターアワー
12.クリサンセマム
13.ディアウェンディ
14.元彼氏として
15.燃える偉人たち
16.フロムナウオン
17.裸
18.戦争を知らない大人たち
19.芝居
20.次回予告
21.ドラマみたいだ
22.告白
(アンコール)
EN1.いつか結婚しても
EN2.音楽家になりたくて
EN3.エゴイスト


My Hair is Badの全国ワンマンツアー「ファンタスティックホームランツアー」の横浜アリーナ公演が、4月16日・17日の2日間に渡って行われた。ライブハウスからホール、そして日本武道館と経てきた彼らがこの日、「アリーナ」という自身最大キャパの会場を見事ソールドアウトさせた。そういったストーリーにももちろんグッときたが、この日のライブで最も胸を奮わせたのは「My Hair is Badの真面目さと誠実さ」だった。また今回の記事では、2日目となる17日の公演について記していく。

My Hair is Bad/横浜アリーナ

椎木知仁(G・Vo)、山本大樹(B・Cho)、山田淳(Dr)がステージに登場し、いつものようにドラム前に集まり、拳を突き合わせて掛け声を掛ける。そして「過去最高のMy Hair is Badをやりに来ました! 新潟県上越My Hair is Bad始めます!」との椎木の宣誓を合図に“惜春”で幕を開け、そのまま“グッバイ・マイマリー”、“18歳よ”と快活にスタートダッシュを切った。椎木は最初のMCにて、冒頭の挨拶でバンド名を噛んだことについて「でもさ、絶好調が故に調子が出ないことってない?」と山本と山田に助けを求めていたが(山田が即答で「ない!」と突っ込んでいた)、最初からフルテンションであることは一目瞭然、改め一聴瞭然だった。その証拠に“微熱”や“接吻とフレンド”でもボーカルアレンジがかなり目立っていたし、走り出しからランナーズハイ状態になっているが故のものに見えた。

曲が終わり、ステージから放たれるエネルギーと共鳴して興奮状態になったオーディエンスから沸き起こった大歓声は、愛しい人の髪をそっと触れる時のように優しく撫でられたギターの音でぴたりと止んだ。そこから、タイトルの通り鮮やかな赤い照明に彩られた“真赤”、青い照明の下で鳴り歌われた“悪い癖”と、珠玉のラブソングが続いた。椎木にとって、そしてMy Hair is Badにとって大きな存在であった2人の女性をそれぞれ歌った楽曲は、照明による視覚的なコントラストも相まって、こちらの胸を切なさでぎゅっと締め付けた。

My Hair is Bad/横浜アリーナ

そんな空気を一変させたMC(山本も思わず「どうしたの?」と突っ込んでしまうほど、緩くて締まらないものだった)を経て、“アフターアワー”、“元彼氏として”などのアッパーチューンを連発するセクションに突入。その中でプレイされた“燃える偉人たち”の冒頭、機材トラブルによってギターが鳴らなくなるアクシデントが起こった。椎木はギターを手放し、ハンドマイクで「チューニングもギターも要らない! 俺の言葉、俺の時間、俺の金、全部懸けてやってる!」と、ステージを駆け回り、その勢いのままに前方の客席に乗り込んでいった。その様子を見ながら、肌の感覚が失われるほど冷たい大豪雨に見舞われた日比谷野外大音楽堂でのマイヘアのライブを思い出した。彼らはあの日も、窮地を劇的に一変してみせた。危機管理としていくら「万が一」を想定していても、起こった瞬間の一歩をどう踏み出せるかで全てが決まる。あの時間は「頭で考えるのではなく、自分の反射と感性を信じる」という、マイヘアがライブ現場でこれまでずっと鍛えてきた瞬発力の賜物だった。実際本人たちは気が気じゃなかったとは思うが、こちらを不安にさせるような緊張感を一切出さずに、トラブルをまるで演出の一環のように見せる彼らの度量と力量をひしと感じた (椎木がフロアに飛び込んだ後、ドラムとベースのみのインストゥルメンタル状態で聴けたのもレアだったし、不測の事態でも山田と山本がどっしりと構えていてくれるということの安心感が物凄く伝わってきた) 。

My Hair is Bad/横浜アリーナ

その迫真のアクトの最中で切ったのか、スクリーンに映し出された椎木の口元は血まみれだった。見た目にも痛々しい姿だったが、そんなことどうでもいいと言わんばかりの気迫を纏っていた。そしてそんな椎木の口から堰を切ったように溢れる言葉の激流の中、「人の価値を信じるなよ! 人が見つけた価値より、自分が見つけた価値だ!」との言葉をきっかけに“フロムナウオン”に突入。「歌う」というよりは「発射する」といった破竹の勢いで、既存の歌詞を即時にアップデートしていくように、爆発的な感情の弾丸で聴く者の心を打ち抜いていった。観ているこちらの息継ぎを抑制してしまうほどのアクトを目の当たりにして、放心状態の会場。その雰囲気を変えたのは、椎木の弾き語りと、暗い背景に数え切れないほどの明かりが浮かび、まるで満天の星空のように見えた雄大な照明だった。その輝かしく穏やかな光景の中で“裸”、“戦争を知らない大人たち”そして「もし自分の人生が一本の映画だったとしたら」という構想の末に生まれたという新曲“芝居”をプレイ。この時間は、My Hair is Badは今、進化の真っ只中にいるということが最も伝わってくるセクションだった。人との繋がりの中で生まれる関係や気付きに対して、誠実に向き合うこと。それを真面目に行いながら歩み進む中で生まれる「もっと色々なことを歌っていきたい、やっていきたい」というバンドの意欲、それを支える裏方チーム、そしてその音楽を楽しみにしているオーディエンス。信頼で繋がるそのトライアングルは、これから更に規模を広げていく。新曲を聴いてそれを確信したし、“ドラマみたいだ”の中で語られた「愛された分、ちゃんと愛したいんだよ」という純真な気持ちは、本編ラストを飾った“告白”に至るまで絶えず真っ直ぐ伝わってきた。

アンコールを求めるコールや拍手に応えて再びステージに現れた3人。「アンコールはサービス残業」と言っている彼らだが、この日のアンコールでは椎木と山本が缶ビール(しかも500ml缶、椎木に至ってはなんと2本)を一気飲み! 会場の大小を問わず、最後の最後まで気負うことなく自分たちらしさを出し切った3人は、「みんなにも幸せになってもらいたいんだよ。My Hair is Badの中で、一番あったかい歌を!」とシンガロングを交えた“いつか結婚しても”、“音楽家になりたくて”、さらに爆速ショートチューン“エゴイスト”を届け、鳴り止むことのない大喝采に包まれながら公演の幕を閉じた。

My Hair is Bad/横浜アリーナ

終演後も椎木は長らくステージに残り、ステージを往き来しては客席を指差して笑いかけ、何度も何度もお辞儀をしていた。“フロムナウオン”の中で「誠実さと優しさは武器じゃない。最後は自分を守ってくれるものになる」という言葉があった。人を想い人に感謝し、過去を省みて今を生き、未来を見据えられるMy Hair is Badは、これからも人を救い、人に護られながら進み続けるだろう。彼らが愛される理由が全て詰まっていた、そんなライブだった。(峯岸利恵)
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