宮本浩次/恵比寿LIQUIDROOM

宮本浩次/恵比寿LIQUIDROOM

●セットリスト
01.風と共に
02.おはよう こんにちは
03.偶成
04.四月の風
05.解き放て、我らが新時代
06.孤独な太陽
07.太陽ギラギラ
08.冬の花
09.赤い薔薇
10.きみに会いたい -Dance with you-
11.桜の花、舞い上がる道を
12.やさしさ
13.ファイティングマン
14.てって
15.待つ男
(アンコール)
En1.月夜の散歩
En2.デーデ
En3.友達がいるのさ
En4.花男


「初めてのコンサートに、こんなにたくさん集まってくれてありがとう! まさかこんなにたくさんの人が集まってくれるとは思いませんでした。しっかり歌っていきますので、よろしくエブリバディ!」
満場のフロアに呼びかける宮本のまっすぐな言葉、そして何より全身から響かせる凄絶なまでの歌声は、未知の地平に踏み込む瞬間の目映いばかりの感慨と闘志に満ちていた――。

1988年のデビューから一貫して「エレファントカシマシ宮本浩次」としてバンドの黄金期を更新し続けてきた宮本が、昨年秋の「“獣ゆく細道”(椎名林檎と宮本浩次)」、「“明日以外すべて燃やせ”(東京スカパラダイスオーケストラ feat.宮本浩次)」でシンガー/パフォーマーとして、さらにシングル『冬の花』でソロアーティストとして、新たな扉を次々に開き続けてきたのはご存知の通りだ。
そして、宮本浩次にとって53歳の誕生日でもある6月12日に開催された、ソロとしては自身初のワンマン公演、題して「ソロ初ライヴ!宮本、弾き語り」。

宮本浩次/恵比寿LIQUIDROOM

アコースティックギターとストラトキャスター、そしてPCだけがセッティングされた舞台に宮本が登場。この日に懸ける宮本の前のめりな情熱が、1曲目“風と共に”の冒頭で歌詞を飛ばして歌い直してみせた場面からも伝わってきて、場内の緊迫感が一瞬ほぐれた――と思ったのも束の間、アコギをかき鳴らしながら強靭なメロディを突き上げる渾身の絶唱が、リキッドルームの熱気を一気に支配する。
さらに、月桂冠「THE SHOT」の本人出演CM曲“going my way”をアグレッシブに歌い上げて一面のクラップを呼び起こしたところで、「すみません! ここまでしかできてないんで」と演奏をストップ。燃え盛る生命力と誠実なサービス精神に満ちた序盤の展開に、会場が歓喜に沸き返っていく。

満場の観客の頭も心もダイレクトにびりびり震わせる“おはよう こんにちは”。穏やかな歌の風景から、アコギのジャッという鋭いキメとともに激しい情熱の奔流へと観る者を導いてみせた“偶成”。リキッドルームに見果てぬ魂の次元を繰り広げてみせた“四月の風”……。これまで「バンドナンバー」として親しんできたエレファントカシマシの楽曲群が、宮本浩次という表現者の磁場のもとでまったく新たな訴求力を発揮していく。宮本の核心そのものに触れるような、生々しいほどにスリリングで美しい時間が流れていく。

宮本浩次/恵比寿LIQUIDROOM

ソロ名義で発表した新曲群とエレカシ楽曲とで構成されたこの日のアクト。宮本がPCを操作しつつ「全部自分の音なんで、弾き語りと一緒かなと思って」と自らのギター&ボーカルのトラックを走らせながら披露したのは、“解き放て、我らが新時代”。
歌とラップの垣根をも押し倒すような鋭利で鮮烈な歌い回しとともに、マイクを手に熱唱する宮本。マイクスタンドが倒れるのも構わず舞台を右へ左へと動き回り、ついにはアコギを置いてオーディエンスに挑むように歌い放つと、割れんばかりの拍手喝采が巻き起こる。

この日唯一ストラトキャスターに持ち替えての“孤独な太陽”から、「大学の授業中に作った歌です」と再びアコギで“太陽ギラギラ”へ。
そして、「自慢の新曲を聴いてください」という前置きとともに、ソロデビュー曲“冬の花”をひときわ丹念に、しかし熾烈な熱量をもって歌い上げていく。音源での壮麗なストリングスアレンジとは異なり、アコギ1本で奏でられる“冬の花”はよりリアルな儚さと力強さをもって響いていた。
「さっきの“going my way”も、ソフトバンクの“解き放て、我らが新時代”も、この“冬の花”も、みんなそれぞれ発注を受けて、すごく張り切って作った曲なんですけども。すごく幸せなことだなと思って。そもそも歌手でパフォーマーだと自分のことを思ってたんだけど、作詞・作曲家としてちゃんとこうやって認められてるのが面白いなあと思って」……そんな宮本の言葉は、「これから」を見据えて躍動する想いを雄弁に物語っている。

宮本浩次/恵比寿LIQUIDROOM

高橋一生への提供曲“きみに会いたい -Dance with you-”をエモーショナルにセルフカバーする場面も交えつつ、“桜の花、舞い上がる道を”では「エブリバディ!」と呼びかけて一面の大合唱を呼び起こしてみせる。
「昨日あんまり寝られなかったんですよね」と明かしつつ、「こんなにたくさんの人の前で誕生日を祝ってもらえるのは初めてです。ありがとうございます!」と宮本がありったけの感謝を伝える。灼熱ロックンロール“ファイティングマン”、シャッフルビートの“てって”といった初期曲に、弾き語りながら圧巻のドライブ感を与え、場内を熱く沸き立たせていく。本編ラストの“待つ男”の獰猛なまでの歌声が、戦慄と感激を同時に奮い立たせていった。

アンコールでは静謐な“月夜の散歩”から“デーデ”へつないでなおも高らかなクラップを巻き起こしてみせた後、「今日はエレファントカシマシとは違う、新しい物語のスタートなんで。もう、俺の……誕生日ありがとう! こんなにたくさんの人と……みんなもおめでとう! 誕生日おめでとう、エブリバディ!」と抑え難く沸き立つ想いのままに呼びかける宮本。「かわいいぜ、カッコいいぜエブリバディ! また会おう!」という晴れやかなコールとともに“友達がいるのさ”を歌い始めた宮本の声が、やがて細かく震え始める。頬を伝う涙もそのままに、宮本は全力を振り絞って歌っていた。その姿がさらなる手拍子の渦を描き出していった。

ここで大団円――かと思いきや、スタッフとの間で「まだいける?」といった風のアイコンタクトから最後にもう1曲“花男”! 自身の53歳の誕生日を「ソロアーティスト・宮本浩次」の記念日として結晶させた、最高のステージだった。(高橋智樹)
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