桑田佳祐が『紅白』+「ひとり紅白」の映像と共に語った未来へ繋がる大衆音楽の偉大なる歴史

「洋楽を聴くにつれて一周回ると、どうしても歌謡曲にたどり着くというか。洋楽を聴いた耳だとちゃんと理解できるし、歌謡曲は偉大じゃないか、自分の血肉となっているじゃないか、と気づいて唖然とする。感動すらするんですけれども」

「(かぐや姫の)“神田川”とか、こんなに壮大な曲なんだって気づくわけですよ。四畳半フォークなんて揶揄されたりもしたけど、今思うと大きな勘違いでね。GAROの“学生街の喫茶店”なんて、ものの見事に完成されたプログレッシブ・ロックなんだよね」

「(『第69回NHK紅白歌合戦』でサザンオールスターズが“勝手にシンドバッド”を演奏中に)ユーミンさんがチュッてキスしてくれたでしょ。あれで僕は一度死んだんです。で、いいんだね?って思ったの。やっちゃっていいんだね?って。へへ」

名言連発。あまりの濃密さに、気が遠のくような思いさえする番組だった。3月20日夜にNHK総合で放送された『桑田佳祐 大衆音楽史「ひとり紅白歌合戦」~昭和・平成、そして新たな時代へ~』。桑田がAAA(Act Against Aids)ライブの一環として2008年、2013年、2018年に開催してきた「ひとり紅白歌合戦」の映像記録を大胆かつ効果的に編集し、桑田自身の証言や解説を交えながら歌謡曲/ポップミュージック史を紐解くというチャレンジングな内容だ。

昭和歌謡からフォーク、ニューミュージック、平成のJ-POPまで、本家『NHK紅白歌合戦』をはじめ数々の音楽番組に残された映像と、「ひとり紅白歌合戦」での桑田の歌唱シーンが交錯し、そこに「歌ってみて、はじめてわかるんですよ」と、一流シンガーとしての深い理解を添えてゆく桑田。阿久悠や、なかにし礼といった名作詞家たちが刻みつけた女の情念を捉え、ジャッキー吉川とブルー・コメッツ“ブルー・シャトウ”の名曲ぶりや久保田早紀“異邦人”の傑作アレンジを賞賛し、中島みゆきの天才性を讃える。

3度の「ひとり紅白歌合戦」をすべて和田アキ子の楽曲で締めくくった理由については、「朗々と終わりにくいんだよね。『ゆく年くる年』の除夜の鐘も鳴らないし」、「和田アキ子のあのグルーヴを真似したんだよね。オマージュ外しましたもん。オーバードライブ全開で歌いましたよ」と胸の内を明かした。パフォーマーである一方、構成作家であり舞台監督でもある桑田の本領発揮だ。目から鱗が落ちまくる。

近年の桑田が歌謡曲に注ぐ情熱に触れて、これは単なるノスタルジーやサービス精神の産物ではない、と感じていた。外来文化であるジャズやラテン音楽が、ソウルやディスコやテクノやヒップホップが、その時折の世相や文化、風俗と結びついてエネルギーを伴いダイナミックに形作る日本の歌謡曲/ポップミュージックを、桑田はリアルタイムな体験として全力で追い続け、探し求めている。長い年月をかけて地球を一周りし、そしてたどり着いた隣家の裏側から勝手口のドアを開けるように、桑田は我々の隣人である「日本の歌謡曲」の大きな背中に出会い続けているのだと思う。言うまでもなく、それは現在進行形のサザン作品や桑田ソロ作品に反映されているのだ。

ハナ肇とクレイジーキャッツやザ・ドリフターズの偉業に触れて、「音楽だけやってると間が持たないんですよ。お笑いをやってウケるとまたやりたくなるけれど、自分が本来やりたいこととは乖離してしまう」といったふうに、アーティストとしての深いシンパシーと苦悩を語っていたのも印象深かった。これって、今まさに始まろうとしているサザン最新ツアーのタイトル「“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”だと!? ふざけるな!!」に通じる話ではないだろうか。

番組の終盤には、本家『第69回NHK紅白歌合戦』でのサザンオールスターズ特別枠出演・締めくくりを振り返る。2010年代の桑田ソロ出演、2014年サザンのライブ中継特別出演を経て、2018年はサザンとして35年ぶりのNHKホール出演であった。平成最後の『NHK紅白歌合戦』で遂に、この上なく華やかに披露されたデビュー曲“勝手にシンドバッド”とはつまり、昭和のデビュー時に「破天荒」と語られてやまなかったこの曲とサザンが、歌謡曲の歴史に重なった決定的瞬間でもあったのだ。

番組の放送中、桑田がボソリと放った一言が、僕の中では強烈な言霊として残ったので、最後にそれを記しておこう。「“勝手にシンドバッド”は、ひとつの音符に言葉を詰め込んだ、メチャクチャだって言われますけど、詞先じゃないんですよ。僕は丁寧に(言葉を)置いてったんだよ、あれ」。(小池宏和)
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