BTSが音楽とパフォーマンスで伝え続けてきた真の想い、そして未来とは?

昨年「アメリカン・ミュージック・アワード」に韓国人アーティストとして初出演を果たし、さらには「Billboard Music Awards」のトップ・ソーシャル・アーティスト賞を2年連続で受賞。昨年発表したフルアルバムは、ついに韓国アーティスト史上初の全米1位を記録し、今月発売した最新ミニアルバム『MAP OF THE SOUL : PERSONA』も全米1位を獲得しているBTS。彼らの人気は母国である韓国だけにとどまらず、海を越えてアメリカ、イギリス、そしてこの日本でも火が着き、その勢いは凄まじいというか、畏怖の念を覚えるものである。

2013年のデビュー当時、BTSはまだ防弾少年団の名で活動していた。今やカラフルなアーティストビジュアルを持つ彼らだが、活動初期は全員が黒の衣装をまとい、クールにキメたビジュアル。それだけでなく、音楽性もヒップホップをど真ん中に置いたようなサウンドで、あちこちにストリートっぽさが内在していたように思う。


グループとして変化が見られたのは2015年あたりだ。ちょうど「花様年華」シリーズのアルバムをリリースしたタイミングである。これまでヒップホップ色を強く打ち出していたサウンドは爽やかさを浮かび上がらせ、耳に残りやすいメロディを宿した音楽は、今までよりかなりポップな印象だった。そのギアチェンジが、多くの人に受け入れられたのは、Billboardの全米ランキングベスト200に入り込んだという事実が表す通り。しかし、精神の根底にあるものは何も変わっちゃいない。グループ名には「10代、20代に向けられる抑圧や偏見を止め、自身たちの音楽を守りぬく」という夢が込められていて、今なおこの信念を常に持ち続けているからだ。

世界中で存在が認められていく、そのまさに渦中にある彼らの魅力とは一体何なのだろうか。まず、BTSといえば、ステージでのパフォーマンス力の高さだ。指の爪先まで揃ったカル群舞(=シンクロした振付のこと、「カル」というのは「ナイフ」を意味する)は、韓国において非常に大衆的であるが、彼らのパフォーマンスは飛び抜けて傑出している。しかも、ただただビシッと揃っているわけではなく、ひとつひとつの動きにちゃんと「自分らしさ」を入れ込むのだ。なのに、乱れているようには感じない。昨年、日本の音楽番組であるNHK『SONGS』に出演した際、数十名のダンサーとともに一糸乱れぬ圧巻のパフォーマンスを披露していたのも、記憶に新しいのではないだろうか。現状に満足しないという精神から毎日長時間におよぶ練習を惜しまず、その努力と引き換えに手に入れたこの技術は、紛うことなき彼らの強みであろう。


また、世に放つ作品の全てにストーリー性を持たせているのは、他のグループにはなかなか見られない特徴でもある。ミニアルバム数枚をリリースしたのちにフルアルバムを出すというタームを基本として活動するBTS。これまでに発表したアルバムは、「学校3部作」、「花様年華」、「WINGS」、「LOVE YOURSELF」、そして最新作は「MAP OF THE SOUL」として、シリーズをそれぞれ設定してきた。しかも、アルバムの内容だけでなく、ミュージックビデオにもその気質をもたせている。独立した別の作品同士の繋がりを読み解くことで、聴覚だけでは補いきれなかった7人の人格や真意に近付くことができるのである。それはミュージックビデオというより、彼らの心を映したドキュメンタリーというべきか。再生回数が1億回を超える作品が数多くあるのも、彼らのメッセージに触れたいと思うリスナーが多くいることの証明である。音楽に関わるもの全てでストーリーを表現してきたBTSというグループ自体が、壮大なひとつのアートだ。


「自分の内に秘めた想いを音楽でアウトプットする」ということは、バンドにしてみればごくごく当たり前のことなのかもしれないが、そもそも彼らのようなアイドルという立場にしてみれば、普通ではありえないことである。アイドルでありながら、彼らは楽曲制作の大部分に参加する――だって彼らは「自身たちの音楽を守り抜く」という使命を背負っているから。抑圧とか、偏見とか、そんな敵から自分たちとみんなを守るために、彼らは自らが作り上げた唄を歌い、踊る。月並みな表現かもしれないけれど、聴いてくれる人がいるから彼らは今日もBTSとして存在しているのだ。これだけ明確な目的を持ったこの曲たちは、まったく無責任な音楽ではない。自分たちが生み出した武器だけを持って、音楽だけじゃ変えられないような理不尽と戦う姿が、めちゃくちゃかっこいいわけだ。全てのサウンドの基盤となるのは、先述の通り、メンバーが作り上げた「自身たちの音楽」であるということ。これを念頭において聞いてみると、サウンドもそうだが、言葉を大事にしていることがよく分かる。それに、自分たちの心をそのまま写しているから、美しい想いは美しいまま音となり、押し殺すような悲しみも元の形で音として聴こえてくる。着飾らないその音楽が、世界中で人の心を打ち抜いているのも驚異的である。

一番最初に7人が誓った想いは海を越えて、今やたくさんの人の心に根付いた。作品を出す毎に更新されていく数字から、自分たちの命を燃やして自分たちを証明していくそのアティテュードまで、全てが破格。彼らは今、ほんとうに無敵だと思う。(林なな)
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