【10リスト】“優しいあの子”だけじゃない。スピッツが女の子を魅力的に描いた10曲

【10リスト】“優しいあの子”だけじゃない。スピッツが女の子を魅力的に描いた10曲
NHK連続テレビ小説『なつぞら』の主題歌、“優しいあの子”を聴くたびに、なぜか不思議な癒しを感じているこの頃。普遍的な初恋を歌うこの楽曲で描かれる「あの子」は、それぞれのリスナーの記憶の中にいる魅力的な少女の姿をして浮かび上がることだろう。6月19日(水)にはスピッツのニューシングルとして、この『優しいあの子』がリリースされるが、思えばスピッツの、というか草野マサムネ(Vo・G)の書く歌詞には、魅力的な少女や女性を描いたものが多いことに気づく。今回は、そんな楽曲の中から、特に「魅力的」な少女や女性が登場する楽曲、あるいはそんな女性への恋心を歌った楽曲を紹介していきたいと思う。(杉浦美恵)


①おっぱい/インディーズミニアルバム『ヒバリのこころ』(1990年)収録
これほど純粋なラブソングがあるものだろうか。そしてこれほど儚いラブソングも他にないんじゃないかと思う。《もうこれ以上の/生きることの喜びなんか要らない》と思えるほどの全能感を手に入れられる相手に出会えた、その奇跡が溢れていながら、その幸せが長くは続かないことも知っているような青春ソング。“おっぱい”というタイトルも、シンプルに耳に残るメロディも、この時期の草野マサムネだからこそ、である。あからさまなほどの女性賛歌でありながら、どことなくひとりよがりな感じもまた「青春」だと思う。

②ミーコとギター/2ndアルバム『名前をつけてやる』(1991年)収録
マサムネが描く歌詞は、どの曲も聴く人と同じ数だけの解釈が存在すると思うけれど、そんな中でも特に「永遠の謎」とも思えるのがこの楽曲だったりする。きっと、誰もがこの歌詞に登場する「ミーコ」と、「ミーコの彼じゃない彼」と、「“パパとミーコ”のようなギター」が意味するところをひとしきり考えたことだろう。確かな答えはリリースから28年が過ぎた今もわからないけれど、ここに登場するミーコという女の子を愛おしく感じるということに異論をはさむ人はいないはず。疾走感溢れるギターサウンドとうねるベースがフレッシュで、《ミーコのぎこちないギターもいい すごくせつない》という歌詞には、なぜだか鮮烈なエロスもにじむ。

③僕の天使マリ/3rdアルバム『惑星のかけら』(1992年)収録
マリは聖母マリアのイメージにもつながるような気がしている。永遠のバージニティを感じさせる女性のイメージだ。《もうどこへも行かないと約束して/僕を見つめていて》と、スピッツにしては珍しくストレートな歌詞。小気味の良いテンポではっきりと愛を歌う曲は、実はなかなか珍しいものかもしれない。《まだまだ知りたいことがたくさんあるんだよマリ》とは、永遠の愛を手に入れたいと思う想いの強さとイコールのようで、聴けば聴くほど、大きな「愛」のことを歌っているようにも思えてくる。

④君が思い出になる前に/4thアルバム『Crispy!』(1993年)収録

《忘れないで 二人重ねた日々は/この世に生きた意味を 超えていたことを》だなんて、《思い出になる前に》と言いながら、ふたりの日々がすでに想い出になりつつあることを示している。マサムネは時に残酷な歌詞を書くなあと思う。別れを悲しみながら自分から去っていってしまうくせに、心をえぐるようなやさしさを言葉にするのだ。この曲を聴いていて思うのは、きっとずっとこの恋を忘れずにいるのは、女性である「君」のほうなのだ。この主人公が思い出すのは《耳と鼻の形》だけ。けれど、自分勝手な恋の歌だからこそ愛しい。

⑤ラズベリー/5thアルバム『空の飛び方』(1994年)収録
これは「セックス」を歌った曲という解釈で間違いないと思う。軽快なロックンロールにのせて、あっけらかんと歌うビビッドな歌。その浮遊するような心地よさが、官能的な時間を爽やかに映し出していく。ここで描かれる女の子の鮮やかな肉体性がまぶしい。マサムネは自身の歌声の強みをよく知っていると思う。こうした歌詞は、アクの強い湿度高めのボーカリストが歌うとトゥーマッチだが、フェティッシュとも言える女性への執着もマサムネの歌声なら、どこか純粋なものとして響くのが良い。こうして原稿を書いていても「セックス」と文字を打つことになんら抵抗がない感じ。でも、歌詞の文字だけ追ってるとなかなかエグいことを歌っていることに気づくはず。

⑥ハチミツ/6thアルバム『ハチミツ』(1995年)収録

これは当時のMVのハッピーで穏やかな印象が強いせいもあって、とても幸せな歌だという印象が強い。先に挙げた“ラズベリー”とは真逆の世界観と言ってもいい。素朴で不器用な女の子、だけどその子と出会えた喜びが、黄金色のハチミツのように静かに溶け出すよう。青い季節に出会えた恋の歌は、永遠の物語のように記憶に残って、美しい想い出だけが今もキラキラとそこで笑っているみたいで、久しぶりに聴くとなんだか泣けてくる。

⑦ナナへの気持ち/7thアルバム『インディゴ地平線』(1996年)収録
この曲は、当時「コギャル賛歌」だと本人も語っていたように記憶する。楽曲の主人公である「ナナ」のキャラクター像が、手に取るように浮かんでくる歌だ。したたかなようで純粋、マイペースだけど繊細。こうした彼女(たち)の青春をマサムネがやさしさと憧れのにじむ眼差しで見つめているみたいで、《街道沿いのロイホで 夜明けまで話し込み/何も出来ずホームで 見送られる時の/憎たらしい笑顔 よくわからぬ手ぶり/君と生きて行くことを決めた》という歌詞などは、奔放で憎めない、生命力の塊のような女の子(たち)への全肯定だ。

⑧マーメイド/スペシャルアルバム『花鳥風月』(1999年)収録
マーメイド、サマービーチ、潮風と、ストレートに夏の恋の歌を思わせるワードが並ぶ楽曲ながら、凡庸な「一夏の恋」的な歌では終わらない楽曲。フィジカルな一瞬の経験は、その後蜃気楼のようにぼんやりとした記憶へと変わるのに、だからこそ、《君の胸に耳あてて聴いた音》だけが、《生まれた意味》として確かな記憶に残る。一夏の恋に未練は似合わないけれど、想い出として描かれるマーメイドは、年を重ねていくほどに、記憶の中でその美しさを増していくのだろう。

⑨潮騒ちゃん/14thアルバム『小さな生き物』(2013年)収録
歌詞にマサムネの地元、福岡の方言が入ったことでも話題となった楽曲。“潮騒ちゃん”はどうやらツンデレで、《ときどき見せる笑顔がいい》。そんな彼女をなぜ“潮騒ちゃん”と名付けたのか、その真相はわからないけれど、後から胸の中に静かに押し寄せる感情の波を思わせるようなネーミングだと思う。とても俗っぽく過ぎていく日常の中で、わかりあえる人に出会えた幸せが、後から後から潮騒のように自分の背中を押すのだ。不思議とポジティブな気持ちにさせてくれる“潮騒ちゃん”。そのままの自分でいいという肯定感を与えてくれる存在がファンタジックに描かれている。

⑩優しいあの子/42ndシングル『優しいあの子』(2019年)収録
今回取り上げた楽曲以外にも、スピッツにはまだまだ魅力的な少女や女性を描いた楽曲がたくさんあるが、最新曲“優しいあの子”で描かれる女の子は、あたたかくて懐かしい童話の主人公のような普遍的な魅力を放つ。多くを語る歌詞ではないのに、そこには幼い恋だからこそ、傷つけて、傷ついた想い出がにじんで、それでも優しく微笑んでくれた「あの子」の姿が浮かび上がる。永遠のノスタルジーの中にあるピュアな初恋を歌った楽曲が、何度聴いても胸に響く。誰もが「あの子」に会いたくなる。

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1987年のバンド結成から今年で30年。日本のロック/ポップミュージックの至宝と呼ぶべき名曲を数多く発表しながらも、時代の趨勢に歩みを乱されることもなく、メンバーチェンジや活動休止もなく、確かな足跡を僕らの心と記憶に残してきたスピッツ。それこそキャリアのどこを無作為に抽出しても「一生聴き続けられる…
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