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JAPAN JAM 2012、2日目の2番手として登場するのは、向井秀徳アコースティック&エレクトリック×星野 源! 本日の前説でプロデューサーの渋谷陽一が向井について「JAPAN JAMの主」と呼んでいたが、初年度は山下洋輔と坂田明というジャズの巨人をZAZEN BOYSで迎え撃ち、昨年は坂田明、近藤等則、七尾旅人と共に驚異的なテンションのジャム・セッションをZAZEN BOYSとして行った。今年は向井秀徳アコースティック&エレクトリックとして、星野 源と共にステージに立つ。つまり3年目を迎えるJAPAN JAMの歴史を共に歩んできたアーティストと言える。


事前にツイッターで「一人暮らしの専門学校生の野郎二人が六畳間で飲みながら朝まで語り、歌い合う」をテーマに演奏すると表明していた向井だが、まずは一人で登場。軽くギターを掻き鳴らした後、お馴染みの口上と共に「今週のお友達をお呼び立てしましょう」という紹介で、星野 源がステージに。向井「私から歌ってよろしいでしょうか」 星野「勉強させていただきます」というやりとりから始まったのは、“Water Front”。向井の言葉が持つ重さは言うまでもないが、向井秀徳アコースティック&エレクトリックを観る度に思うのは彼の歌の太さ、というか、強さだ。情念を伴ったどっしりとした存在感がある。曲が終わると、何も言わずに星野 源はアコースティック・ギターを弾き出す。始まったのは“バイト”。この最初の2曲だけを聴いても、お互いの楽曲がそれぞれの楽曲へのアンサーソングとなっている。向井も何を言うでもなく、間髪入れずにギターを弾き始める。「“KARASU”という曲です」と紹介した後、歌い始めた向井の凛とした声が本当に綺麗だ。最近の曲だけれど、彼のイメージががらりと変わる、そんな印象がある。


続いて星野が歌い始めたのは“くだらないの中に”。彼の代表曲のひとつで、よく知られているこの歌だが、元々お互いの曲の持つ言葉が1mmもブレていないから成立している、そんな交感なのだということを改めて実感する。歌いながら星野のテンションはどんどん上がっていく。向井は続いてエレクトリック・ギターを手に取って、「ハッ!」という声を上げる。鋭いギターのリフがループし始め、向井は「“SAKANA”」と端的に曲名を告げる。次々とギターのループを重ね、曲は混沌とした様相を呈し始め、向井の歌はその混沌をさらに掻き回していく。交互に楽曲を披露する展開の最後となったのは、星野による“フィルム”。少しざらついたギターで歌われたこの曲は、音源とは少し違うイメージ。ここまでは、いわゆるセッションはなかったわけだが、お互いが呼応し、お互いを認めることでこのステージが成立していることはステージの空気を見れば分かる。


ここでようやくMC。向井が「ここまではそれぞれの曲をやってきたんですけど、今度は僕が星野くんの曲をやらせてもらいたいと思うんですけど」と告げ、星野が「この会場にいる誰よりも僕が一番うれしい」と答える。そして、向井が歌い出したのは“老夫婦”。「どうだっけ?」と言いながらスタートしたが、向井がこの曲を気に入っていることは、その歌を聴けば十二分に伝わってくる。曲が終わった瞬間に、星野は「素晴らしい!」と一言。そして、「お返しというわけではないですが……僕も向井さんの曲を歌わせてもらいます」と言って始まったのは、ナンバーガールの“透明少女”。向井がファルセットでコーラスを被せる。10年以上前、阿佐ヶ谷の風呂なし6畳のアパートでこの曲を聴き倒したと語っていた星野、本当に、リスペクトがそのまま溢れ出すように歌う。向井、「前にやっていたナンバーガールというバンドのメジャー・デビュー曲で、爽やかな曲を作ろうと思って作ったんですけど、なぜか濁ってですね。最初のコンセプト通りに歌っていただいて、ありがとうございます」。


そして、デュエットの形で始まったのは、星野の“くせのうた”。星野がやわらかく歌い始め、2コーラス目から向井が歌うのだが、この曲に見事にフィットしているのが素晴らしい。この2人がこうした形で、サシでステージに立つのは必然だったのだなとすら感じてしまう。もちろん、こうした形でステージに立つのは初めてだが、この2人のコラボレーションは初めてではない。映画『少年メリケンサック』の音楽を向井が担当し、星野演じる劇中バンド「Generation Of Animation」に“あいまい模様”という楽曲を提供しているのだが、今度はそれを歌うことに。「ちょっと待ってください。役者モードに入るので」と、星野は照れくさそう。しかし、この曲、ライヴで演奏されたのは今日が初めてだとのこと。
更に、今度は「星野くんのやっているバンド、SAKEROCKの曲を歌いたいんですけど」と向井が語り、インスト・ナンバー“MUDA”を「ニャーニャー語」で2人で歌い始める。この曲について「飄々としてるんだけど、尖っているというか、エッジがある」と語っていた向井だが、まさにこの曲に封じ込められた体温を、そのギターと「やるなら今しかねえ」というその場で出た言葉であぶり出してみせる。


「これずっとできるんだけどね……一晩中とか。でも、あと2曲やろう」と言って始まったのは、再びのナンバーガール楽曲、“IGGY POP FAN CLUB”! あのリフをこの2人が弾く。リフだけで客席からは拍手喝采が飛ぶ。星野は自身の曲では見たことのないような大きなギター・ストローク。自然と2人とも立ち上がる。向井もナンバーガールの頃の弾き方を彷彿とさせる立ち振る舞い。ナンバーガールの楽曲とは距離をとってきた向井だが、このコラボレーションだからだろうか、向井も満更でもない様子で一緒に歌う。それが観ている方としてはたまらなく嬉しい。そして、「福岡の後輩の曲をやります」と向井が言って始まったのは、YUIの“CHE.R.RY”。この曲、向井はアコエレで何度もカヴァーしているが、当然、この二人で歌うのは初めて。サビの高音を二人とも苦しそうに歌う。それがなんとも言えず、この2人のキャラクターを映し出す。最後は「星野 源」「向井秀徳」と、何度もお互いを紹介した2人、そこにはこのステージを共有した実感が表れていた。(古川琢也)


◆向井秀徳アコースティック&エレクトリック×星野 源

1. Water Front
2. バイト
3. KARASU
4. くだらないの中に
5. SAKANA
6. フィルム
7. 老夫婦
8. 透明少女
9. くせのうた
10. あいまい模様
11. MUDA
12. IGGY POP FAN CLUB
13. CHE.R.RY