言葉ゾンビが再び立ち上がる──amazarashiが今、掲げる拳に秘められた願いとは

乾いた唇でざらついた喉を鳴らし、重い腰を引きずりながらもつれる足で無理やり前進するように紡がれる言葉たちは、希望や解放、あるいは絶望や破壊を求めて静かに踊りだす。
《僕は大嫌い 僕は大嫌い/君のベストライフ》(“君のベストライフ”)
シニシズムでもニヒリズムでもなく、ここで語られるのは確かなリアルだ。


言葉が規制された世界を舞台に、テンプレートを逸脱した自由な言葉を検閲する自警団「新言語秩序」と、逸脱した言葉を使い続ける活動家「言葉ゾンビ」たちとの抗争を描いたプロジェクト「新言語秩序」は、2018年に日本武道館で開催された朗読演奏実験空間 「新言語秩序」として世界を飲み込み、そして幕を下ろした。
あれから6年。
突如として発表された新曲"君のベストライフ"のリリースとMVは、2025年4月29日(火・祝)に開催となるamazarashi初の横浜アリーナ公演「電脳演奏監視空間 ゴースト」の開催を知らせる初報として鳴り響く。

「新言語秩序」の続編と銘打たれたこの発表には驚きと喜びと同時に、ある疑問が浮かび上がってくる。それは、なぜ今再び「言葉ゾンビ」として秋田ひろむはその拳を掲げるのか、ということだ。
新曲“君のベストライフ”は、昨年10月にリリースされたアルバム『永遠市』以来、1年ぶりの新曲だ。『永遠市』で秋田は再び暗闇から社会に手を伸ばし、その狭間に存在する自らの音楽に共振する人々に向けて救いの歌を歌った。

amazarashiの歌に居場所を求める我々がたどり着いたリアル――『永遠市』を聴いて
オフィシャルサイトに公開された秋田ひろむによるセルフライナーノーツの冒頭にはこう記されている。 アレクサンドル・コルパコフ 袋一平訳『宇宙の漂泊者』より 光速を超えた宇宙探検から地球へ帰還し、地球の時間からおくれた者たち「相対性人」が暮らす町。 この町がつまり「永遠市」で…

“君のベストライフ”は、そんな社会や世界といった大きなつながり、ルール、しがらみ、常識に絶望する、抵抗するという意味でのアンチテーゼにも聴こえるし、「僕」と「君」、あるいは「過去」「未来」に存在する自分自身について至極内省的な思いを歌っているようにも感じ取れる。
囁いているようであり吐き出しているようでもいて、嘆いているようでも憤っているようでもある。
《全部大嫌い》という言葉で締めくくられるこの歌は、しかしネガティブな感情だけを解放しているわけではない。
その拳はグッと握られているか、もしくは掲げられているはずだ。
《全部大嫌い》という言葉は決別の言葉であり、再生の願いであり、再会への希望なのだ。

この6年の間、コロナ禍をはじめ世界を分断するありとあらゆる出来事が日々押し寄せる中で秋田ひろむは再び立ち上がった。立ち上がらなければならなかった。
「言葉ゾンビ同士諸君」という呼びかけのもと、言葉を自身を形成する一要素ととして内側に留めておくのではなく、誰かとコミュニケーションを取るための明確な意志に再び変えるため。
横浜アリーナで一体何が行われるのか、秋田ひろむは、amazarashiは何を成し遂げようとしているのか、今から楽しみで仕方がない。(橋本創)


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