ゲンズブールとベック

ゲンズブールとベック

来年1月リリース予定のシャルロット・ゲンズブールの新作『IRM』を聴く。
ベックが全面参加、というか、結局、彼がすべての楽曲の作詞作曲プロデュースを手がけたアルバムである(シャルロットは1曲、詩を書いたようだが)。

ということで、このアルバムはもう「ベックの新作」と呼んでもいい楽曲のオンパレードである。
そして同時に、シャルロットというアーティストをきちんと際出させる楽曲も収められている。
おそらく、こういう芸当ができるアーティスト/ミュージシャンは今、ベックだけだろう。

ベックがセルジュ・ゲンズブールのファンであることは有名である。
そして、セルジュ・ゲンズブールが昔、娘シャルロットをプロデュースした作品を発表していたことも有名である。

つまりこれは、ベックがセルジュのようにシャルロットと交わる作品、ということになる。
セルジュによるシャルロット作品がそうだったように、その行為はとてもエロティックであり、危険なまでに背徳的で、倒錯的で、つまりは、高級なアート、ということである。

高級なアート行為であっても、言うまでもなくその作品は、どの曲もポップで聴きやすく、しかも刺激的で、普遍的である。
それはまぎれもなくベックのマナーである。
そして、最近のベックの作品がそうであるように、そこにはいつも、「幽霊」の音がしている。
どこか決定的に空恐ろしい、ここではないどこかで息をしているものの存在がある。
この作品でいえば、それが誰かは言わずもがなになる。

この『IRM』を高級なアートと呼んだのはそういう意味でもあって、
作品の入り口と出口がいくつも立ち現れてくる、その作品と向き合うのにいろんな場所があるということである。この複雑さが豊かな物語となって響きあうのだ。

単線的なアングルが賞賛される場合も多いロックの世界で、
「シャルロット」という外部を経由しながら、
ベックがやはり厳然と特別であることを知らしめる作品でもある。
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