ジャック・ホワイトが語る、マイケル・ジャクソンからアル・カポネ!!新作のインスピレーションとなった10の狂った試み。最新号インタビュー番外編。

Photo By Akemi Nakamura

只今発売中のロッキング・オン最新号(2018年4月号)のジャック・ホワイトのインタビュー読んでもらえたでしょうか?

ご存じかもしれませんが、ジャックは死ぬほど早口で話すので、実際のインタビューは掲載した分の2.5倍くらいあります。泣く泣く削った内容で、その中で面白かった話をご紹介。

ジャックは毎回アルバムを作るごとに様々な難題を自分に課し、また新たなインスピレーションを得ることでそこから自分がいかに真実を掴み取るのかを試しているように思うのだ。が、最新作『ボーディング・ハウス・リーチ』のインスピレーションや、難題がいつにも増して狂っている!!!以下その中から10の試みをご紹介。

1)初めてアパートで独り暮らしし、隣の人に聴こえないように作曲する。そこで使うのは14歳の時に初めて自分が買ったテープレコーダーのみ! ドラムもアンプも使ってはいけない。

そのアパートの写真が公開されていたのだけど、想像していたのの100倍くらいカッコ良かった。感動。こちら。

そもそも生まれてから一度も独り暮らしをしたことがなかったそうなのだ。だから「独り暮らしをするのが夢だった」ということ。

彼が14歳の時に使った機材のみを使った理由は、
「10代の頃のように、自分でエンジニアになって一から音を作ることができるのかに挑戦した。今の自分は当時に比べて様々な技術を学んだわけだけど、14歳の時とどう違う方法でレコーディングするのかを知りたかったんだ。なかなか面白かったよ。自分の音をアパートの隣人に聴かれないようにするという設定にも繋がったしね。だからドラムも使わなかったし、ピアノも弾かず、アンプも使わなかった。ドラムセットの代わりにドラムマシーンを使って、レコーダーに直で録音したんだ。そのおかげで、今回全く新しい方法で曲を作ることができた」。

2)マイケル・ジャクソンのように作曲する。
詳しくは4月号を読んでいただきたいのだが、『THIS IS IT』でマイケルが楽器を弾かず、コードも指定せずに、ベースからメロディから全部歌いながら指示していたのを観て、自分も楽器を弾かず、彼のように脳みそで音楽が書けるのかを試してみたかった、ということ。

3)初めて大都市でレコーディングする。
今回の作品は地元ナッシュビルの他に、初めてNY、LAでレコーディングしている。これまで一箇所で短時間でレコーディングしていたジャックにしてはこれも初。

「これまで大都市でレコーディングしなかったのは、若い時は、大都市が怖かったからなんだ。というのも、周りで様々なことが起きすぎていて、自分がインスパイアされることなく、クリエイティビティが減少すると思っていた。だからこれまでは大都市は避けてきた。だけど、今回はそういう場所で敢えてやってみるのが良いと思えたんだ。そういう場所に行けば、これまで一度も一緒に演奏したことがない、様々なジャンルのミュージシャンとレコーディングができると思ったから」

4)ヒップホップ・シーンのミュージシャンと共演する。
「ヒップホップの世界からたくさん参加してもらった。キーボード・プレイヤーは、JAY-Zとかケンドリック・ラマーと演奏してきた人だし。色んな人たちに聞いたんだ。この人はどうかな? この人はどうかな?ってね。結果的に素晴らしいミュージシャンたちをたくさん見付けて、すごくラッキーなことに結果的には上手くいった。これまで一度も一緒に演奏したことがないミュージシャンはこんなにたくさん雇ったことがなかったから、場合によっては、一瞬にして酷い状況になることだってあり得た。だけどそうならなかったんだ。共通言語を話せたのみならず素晴らしい結果を生み出すことができたんだ」

5)カニエ・ウェストのようにレコーディングする。
これについては最新号を読んで欲しいのだが、ジャックはカニエの『イーザス』ツアーを観て感動。「これまでの人生で観た最もパンク・ロックなライブだったと思う」と語っている。今作のレコーディングでは、カニエの立場に自分が立ち、カニエなどと仕事しているミュージシャンを雇ってアルバムを作ったらどうなるのか実験した作品なのだ。


6)初めてスタジオで会ったミュージシャンと、3日間でレコーディングする。
「俺がナッシュビルでドラムビートのサンプルをループして作った曲をNYに行って、その時初めて会ったバンドに聴いてもらい、それに合わせて演奏してもらった。それぞれの都市に3日間しかいないで状態でレコーディングした。だからみんなにまずリラックスしてもらい、数日でドラムの音を調整する、なんてやり方ではなかった。スタジオ入りした瞬間から20分後にはレコーディング開始だったんだ。即座に始めて、全員が全く違ったエネルギーをもたらしてくれたんだ。結果それぞれの曲にものすごく層ができ、しかも1曲に付き実は20分くらいの長さになった。それを聴きやすい曲にするために3分間の曲に編集した」

7)初めてプロツールを使う。
「プロツールでレコーディンするのは全然好きではないし、プログラムでできるデジタルのプラグインや、フェイクなリバーブとか、圧縮機能とかそういうサウンドは全く好きではない。だけど編集の道具としてはすごく便利なんだ。これまではずっとテープとカミソリで編集してきて、それは最高に難しかった。俺はずっとそうやってきたんだけど、でももうカミソリで編集している人はどこにもいない。今回のアルバムで編集にプロツールを使ったのは、あまりに複雑なアルバムだったからなんだ。ナッシュビルで8トラックでレコーディングしたものをNYに持って行って、その上にレコーディングして、LAに持っていて、さらにその上にレコーディングした。だから1曲に付き、36トラックくらいになっていて、そんなにトラックが多いことこれまでの人生で一度もなかった。そこまでトラックがあると編集がものすごく大変になる。ドラマーが4人もいる曲もたくさんあったし、めちゃくちゃ複雑だったからそれをテープとカミソリで編集するなんて絶対無理だった。だからプロツールで編集すると決断する以外にはなかった。これだけの楽器が使われた作品で、それは適切な判断だったと思う」

8)マイルス・デイヴィスやプリンスのように自分を窮地に追い込む。
長い曲を後から編集したという意味では、マイルス・デイヴィスの『ビッチェズ・ブリュー』などを彷彿とさせると訊くと、

「それは考えなかった。このアルバムのサウンドをどうやって人に説明すればいいのか、よくわからないんだ(笑)。とにかく自分で聴いて考えてもらう以外にない。ただ、アーティストが自分を窮地に追い込むことからものすごく革新的なものを見出すと言うことはこれまでにもあったと思う。『ビッチッズ・ブリュー』はそうだし、プリンスの『Sign o’ the Times』がそうだ。様々なアイディアが一つの瞬間で起きているというアルバムが存在する。だから、俺としては今42歳で、これまでのたくさんのアルバムを作ってきた後で、それでもまだこの作品ほどたくさんのアイディアが衝突し合っているアルバムを作れると言うのは、最高の気分だよ。というか、俺はまとめあげなくちゃいけないようなアイディアがまだまだありすぎるくらいなんだよね。それって悪くないよ。というのもその反対である事の方が簡単に想像付くからね。ギターを抱えて『何のアイディアも浮かばない。どうすればいいのか全く分からない』といういわゆるライターズブロックになることは容易に考えられる。幸運なことに、そういう問題に今のところ直面したことがない。今後もそういうことがないと良いと思うよ(笑)」

9)アメリカの銃問題について歌う。
ジャックはこれまでとりわけ政治色が強いアーティストだったとは言えないが、この作品では政治的な曲を何曲か作っている。例えば、“What’s Done is Done”では、主人公が銃を買いに行く場面が出てくるのだ。それについて、
「この曲のアイディアはすごく色々なところから来ていて、最初はアメリカで店に入って銃を買うことがどれだけ簡単なのかを伝えようとした。それって、ものすごく悲しい事実だ。クリス・ロックが言っていたジョークで面白かったのは、『弾丸を1つに付き、1万ドルにするべきだ』と言うね。そうすれば本当に必要な時以外使わないから、ってね。でも、アメリカでは、銃を買うのはすごく簡単だ。俺はそれをブルーズやカントリー・ソングでよく歌われるテーマと結びつけて書いたんだ。それから曲の終わりでの男の行為は、自殺か、または復讐を思わせるような内容になっている。それをカントリーのデュエットのように、ふたりがお互いに対して腹を立てている内容にしたんだ。ロレッタ・リンが曲の中で夫と喧嘩しているような感じでね。この曲はカントリー・ソングなんだけど、エレクトリック・ドラムがあり、シンセサイザーがあって、カントリー・ソングでは俺がこれまでに使ったこともないような楽器の構成になっている。そのおかげで新境地に行けた曲でもあったんだ」

10)アル・カポネからドヴォルザークの曲を買ってカバー??
このアルバムの最後でなんとジャックがドヴォルザーグの“Humoresques”をカバーしていて、ジャック史上最高と言える美しさになっている。涙が溢れそうになる。それがこの荒れ狂うようなアルバムの最後にぴったりなのだ。しかしこの曲を演奏するきっかけになったのは、なんとアル・カポネなのだ!!

「これはクレイジーな物語があって、もともとは楽譜をオークションで買ったんだ。その説明書きが、『アル・カポネがアルカトラズ刑務所にいる時に手書きで書いた楽譜“Humoresques”』だったんだよね。それで俺はその曲が何か知らないまま楽譜を買ったんだ。それでインターネットで調べたんだけど、歌詞についてよく分からなくて、アル・カポネが書いた歌詞なのかどうか結局分からなかった。それでその楽譜を買ってNYに持って行き、何人かのミュージシャンに弾いて欲しいとお願いしたんだ。それで演奏してもらっていたら、スタジオのマネージャーが、『なぜドヴォルザークを演奏しているの?』と言うから、『えっ、どういう意味?』と訊いたら、『これは、ドヴォルザークのクラッシックで、“Humoresuqes”でしょ』と言うんだ。それで、『ええ、マジか。知らなかったよ』と言ってね。それで歌詞はどうなんだ?と言ったら、クラッシックだから元々はなかったはず、と言われて、それではやっぱりアル・カポネが自分で書いたんだろうか?とかって永遠謎を解くのに時間がかかったんだ。1か月くらいかかってやっと、1930年代の音楽プロデューサーがたくさんの作詞家を雇い、ドヴォルザークの“Humoresques”に歌詞を付けようとした、と分かったんだ。だけどそれは譜面でしか残っていなくて、レコードとして発売されていなかった。だからアル・カポネが恐らく大好きで、曲を覚えていて、アルカトラスで書き記したのか、または最初から楽譜を持っていたのかだと思う。彼はアルカトロスにいる時にバンドを持っていたくらいで、マシンガン・ケリーがドラマーだった。アル・カポネはテナー・バンジョーを弾いていたんだ。このすべてが本当に素晴らしい物語だと思ったんだよね。それが“Humoresque”がこのアルバムに辿り着いた物語だったんだ(笑)」

ジャックのこの衝撃の新作『ボーディング・ハウス・リーチ』は3月23日発売! 必聴。
http://www.sonymusic.co.jp/artist/jackwhite/discography/SICP-31143
中村明美の「ニューヨーク通信」の最新記事