Ye(カニエ・ウェスト)が、1月26日付の『ウォール・ストリート・ジャーナル』紙に一面広告を出し、「俺はナチスでも反ユダヤ主義者でもない。ユダヤ人の人々を愛している」と記した公開書簡を発表した。書簡の中でYeは、「自分が傷つけた人たち」に向けて、これまでの反ユダヤ的発言について謝罪し、赦しを得たいと考えていることを明らかにしている。
また、これらの言動は、双極性Ⅰ型障害の治療を受けていなかった時期に起きたものであり、その背景には、2002年の自動車事故による神経学的損傷があったと主張している。
さらにYeは、「その状態にあった時の自分の行動を振り返り、公にしたことを心から恥じている。責任を引き受け、治療に真摯に向き合い、意味のある変化を遂げることを約束する」と記している。現在は、投薬とセラピーを組み合わせた新たな治療が「効果を上げている」とし、「同情や免罪符を求めているわけではない。赦しは、自らの行動によって勝ち取りたい」と強調した。「今日は、再び正しい場所へ戻ろうとするその過程において、忍耐と理解を示してほしいとお願いするために、この言葉を書いた」とも述べている。
書簡では、ユダヤ人コミュニティだけでなく、ブラックコミュニティを失望させてしまったことについても謝罪している。
Yeは2023年にも一度謝罪を行っていたが、その後それを撤回。2025年には、服薬をやめ、治療を受けていなかった双極性Ⅰ型障害の影響で、ヒトラーを肯定する姿勢に傾いていたと語っている。その時期、Yeは自らをナチスだと宣言し、ヒトラーへの愛を公言。反ユダヤ的な行動をエスカレートさせ、鉤十字をあしらったTシャツを発売したほか、ヒトラーを賛美する楽曲も発表していた。
今回の書簡では、こうした行動の背景として、2002年に自動車事故で負った脳の損傷に言及している。この事故については、Ye自身がこれまでも繰り返し語っており、顎をワイヤーで固定した状態のまま、デビューシングル“Through the Wire”(2003年)をレコーディングしたことでも知られている。
なお、ニューヨーク・タイムズによると、「双極性障害は、遺伝的な脆弱性、強いストレスを伴う人生上の出来事、薬物使用など、複数の要因が重なって発症すると考えられている。脳損傷がこの障害を直接引き起こすという明確な証拠はほとんどないが、頭部外傷が妄想や幻覚といった精神病症状に関与することは知られている」とされている。
以下謝罪文。
「自分が傷つけてしまったすべての人へ
25年前、俺は、交通事故に遭い、顎を骨折し、脳の右前頭葉に損傷を負った。当時、治療に専念したのは目に見えるダメージで、骨折や腫れ、即時的な身体的障害で、頭蓋骨の内部で起きていたより深刻な損傷は見逃されていた。
だから精密検査も行わず、神経学的な診察も限られたもので、前頭葉損傷の可能性については指摘もされなかった。それが正しく診断されたのは、2023年になってからだった。その医療上の見落としが、俺のメンタルヘルスに深刻な影響を与え、双極性障害I型と診断されることになった。
双極性障害には、“否認”するという防衛機能がある。また躁状態の時は、自分が病気だとは思えない。周囲が過剰反応していると感じ、実際は、完全に現実感覚を失っているにも関わらず、『これまでで一番世界が明確に見えている』と錯覚してしまう。
そして一度『クレイジー』というレッテルを貼られると、自分は世界に意味のある貢献ができない存在だと感じてしまう。冗談のように笑い飛ばす人もいるかもしれないけど、これは命に関わる非常に深刻で衰弱性の高い病気だ。世界保健機構(WHO)およびケンブリッジ大学によると、双極性障害を持つ人の平均寿命は10〜15年短く、全死因死亡率は一般人口の2、3倍になる。これは重度の心疾患、1型糖尿病、HIV、がんと同等で、治療しなければ致命的となりうる病だ。
俺は、これによって現実との視点を失ってしまった。問題を無視し続けて、状況は悪化し、深く後悔している言動を繰り返した。最も愛している人達を、最も傷つけてしまった。みんなは、恐怖、混乱、屈辱、そして時に別人のようになった自分と向き合い続けることになり、疲弊を耐え抜いてきたと思う。振り返ると、俺は本来の自分から切り離されていた。
そんな壊れた精神状態で、俺は最も破壊的な象徴である鉤十字(スワスティカ)に引き寄せられ、それをプリントしたTシャツまで販売してしまった。双極障害I型の難しいところは、判断力を失った断絶の瞬間が存在すること。なので、その時期に行ったことの多くは、自分の記憶にもない。そのため、著しく間違った判断や無謀な行動が生まれ、それは、“自分が自分の体の外にいる”ような感覚を伴う。そういう状態での自分の行動を、俺は深く後悔し、心の底から恥じている。俺はその責任を引き受け、治療を続け、意味のある変化を遂げることに全力を遂げることに全力で取り組んでいく。これは、決して言い訳にはならない。でも、俺はナチスでも反ユダヤ主義でもない。ユダヤ人の人々を愛している。
黒人コミュニティへ。俺がハイの時も、どん底の時も、最も暗い時に俺を支え続けてくれた。黒人コミュニティは、疑いようもなく俺という人間の基盤だ。そのみんなを失望させてしまったこと、心から謝罪する。自分たちを愛している。
2025年はじめ、俺は、精神病的で、妄想的かつ衝動的な行動を伴う、4ヶ月に及ぶ躁状態に陥った。それで人生を破壊した。状況が持続不可能になるにつれ、もうここにはいたくないと思うこともあった。
双極性障害には、恒常的な精神疾患という特徴がある。躁状態に入っている時は、その時点で、“病気”で、しかしエピソードの外では、完全に“普通”の状態に戻る。しかしその時にこそ、病気が残した瓦礫が最も強く襲いかかってくる。数ヶ月前、完全に行き詰まり、妻が本気で治療を受けるように背中を押してくれた。
そして意外にも、Redditのフォーラムの中で、救いを見つけた。躁状態うつ状態で、同じような経験をする人達の声を読み、自分は1人ではないと気づいた。毎日薬を飲み、世界最高と言われる医者たちから、『双極性障害ではなく、自閉スペクトラムの“症状”だ』と言われ続けながら、それでも年に一度、人生を丸ごと破壊してしまうような人は、自分だけではなかった。
コミュニティのリーダーとして発する俺の言葉は、世界規模の影響力を持っている。躁状態の中で、俺はその事実を完全に見失っていた。
今は、適切な投薬、セラピー、運動、そしてクリーンな生活を通じて、新しい基準点と中心を見つけつつある。必要だった、はっきりしとした明晰さを取り戻しつつある。音楽、服、デザイン、そして世界の役に立つ新しいアイディアといった、前向きで意味のある創作にエネルギーを注いでいる。
同情や免罪符を求めているわけではない。ただいつか赦しを得られるように努力したいと思っている。今日この文章を書いたのは、ただひとつ、道を失った自分が“帰る”までの間、少しの忍耐と理解をお願いしたかったからだ。
愛を込めて
Ye」
Yeが治療を受けていると知り、心から嬉しく思う。これまでの一連の極端な行動は、明かにメンタルヘルスの問題と結びついているように見え、適切な治療がなされていないことが大きかったのだろうと感じていた。彼にとって最も過酷だったのは、その過程をすべてが公の場にさらされ続けていたことだ。彼を激しく批判する世間の声も、過剰に擁護する一部のファンの態度も、どちらも彼のためになっているとは思えず、個人的には同意できなかった。むしろ、できる限り距離を保ち、本人が自らの治療の必要性に気づくまで待つしかないのではないか、と思っていた。
その日が、とうとう来たのだと信じたい。現在の音楽シーン、そしてカルチャー全体を見渡しても、Yeがもたらした変化や影響はいまだ数多く残っている。ここに書かれているように、これからも治療に専念し、また戻ってきて欲しいと願っている。