MGMTレポ@Bamboozle
2010.05.05 08:03
ニュージャージーのスポーツ複合施設の駐車場で毎年行なわれるBamboozleフェス。私が最後に行ったのは、07年でその時のヘッドライナーはリンキンパークとマイ・ケミカル・ロマンスだったが、パンク・ロックからポップ・アクト、ヒップホップとまんべんなくラインナップを揃えたこのフェスは、コーチェラのようなヒップ感はゼロだし、ボナルーのような入魂の音楽ファンの集いというわけでもない。かと言って、ロラパルーザほどの豪華なラインアップでもない。しかし、1日3万2千人x2日間を集まるこのイベントは、明らかに地元ニュージャージーの高校生にとっては、毎年の恒例行事として定着した感のあるそれなりに重要なフェスなのだ。エコフレンドリーも、ヘルシー志向も皆無。ペプシの紙コップはそこら中に落ちているし、そんなアスファルトの上で子供達は平気に日光浴をする。売ってる食べ物と言ったらチキン&ポテトフライのみ(笑)。ニューヨークから川を渡っただけだけど、しかしこれがニューヨーク以外の果てしなく広がるアメリカのリアリティなのではないかと改めて思い知った。
そしてだからこそ、MGMTにはより感動したのだ。彼らは、確か”スター”扱いされたことに嫌気がさしたはずなのだ。そして新作『コングラチュレイションズ』を作った。そもそも1枚目が突然売れてその”ハイプ”を嫌がり、突然インテリぶったり、考え込みすぎて地味なアルバムを作るようなバンドはたくさんいる。2枚目のジンクスという言葉があるくらいで。しかしこのアルバムはそんなものも軽く超越した作品だった。そして自分達に心から正直なそんな作品を作り切ったという恐らく自信があるからなのだろう。彼らのこの場に、何のためらいもなく笑顔で立っていたのだ。”スター”扱いされるのが嫌だったら絶対に出たなくないはずのこのフェスに。”ブライアン・イーノ”が誰なのか知らない人が恐らく99。999999%集まったフェスに。
私に記憶が正しければ、セットリストは、
Flash Delirium
Time to Pretend
Dan Treacy
Congratulations
It's Working
Destrokk
Electric Feel
Brain Eno
KIDS
だ!だから、彼らがそんな観客の前にして「だからとりあえず楽しもう!」と2曲目にして歌った時、思えず目の奥がじーーーんときてしまった。彼らは大丈夫だと思った。アンドリューは、ノドの強いヴォーカリストとは言えないし、バンドも以前よりも強靭に力を増しているという感じでもなかった。これまでライブで演奏してきた新曲は、ぐっとアップテンポにタイトにそしてポップに生まれ変わってはいたが。しかし、時々ヨタっとしながらも自然に立ち直るところや、バンドがそんな状況でお互いのサウンドを実は絶妙なバランスで支え合っているところは見事だし、正にサーフィンをしている感じなのだろうか。それにその人間的感触こそが、いつものことだけど、心の引っかかりとなって聴き入っているうちに突然の光を放ったりするのだ。そして何より頼りないながらにも、オーディエンスを引っ張っていくパワーがあるのだ。そういう意味で非常に稀な素晴らしいバンドと言えるかもしれない。
そして、セットリストを見てもらえれば一目瞭然。新譜の曲の間に、”Time to Pretend"、"Electric Feel"というファーストの中でも最も人気ある2曲を入れているだけじゃなく、西海岸のライブでは演奏しなかったという”キッズ”をしっかりと最後に演奏している(涙)。このフェスに出るということは、そういうことで、それをしっかりと全うした。もちろん、彼らの単独ライブだったら別のやり方はありかもしれないが。「アイ・ラブ・ユー!今日は僕らを観に来てくれて本当にありがとう」とまで言っていた。そもそも私はこれまでたぶん彼らのライブを10回くらい観ているけど、”キッズ”をやらなかったライブは一度も観たことがないし、それに、今回はこれまで私が観た中では一度しかなかったアンドリューを真ん中に据えてのセット。そこらへんにも新たな決意を感じる、と言ったら深読み過ぎかもだが。しかし、そのアンセムを聴けたティーネージャーの喜びようと言ったらなかった。引きこもらずに、逃げずに、その使命をしっかり背負った彼らには本当に感動したし、見た目よりもずっとタフで大人で懐が深いのだと思った。優しいとすら言えるというか。立っている位置がやっぱり違う。視線の先で見ているものが違うのだと思う。彼らの”キッズ”を聴きに来たティーネージャー達を見捨てなかった姿は、何より感動的だった。それは、間違いなく、今年最も幸福な瞬間だった。