先月号アルバムレビューズで取り上げたピンク・フロイド『狂気─50周年記念盤ボックス・セット』。中でも最注目なのが、フロイド音源ならこの人のプロデューサー/エンジニア、ジェイムス・ガスリーによる史上初のアトモス・ミックスで、これをついに実体験できた。
映画館などで採用されているドルビー・アトモスとは、単純に言えば前後左右のサラウンドに加え頭上からも音が聴こえ、より立体的な音空間を演出することができるもの。『狂気』の、イマジネイションを激しく刺激する世界を考えるとそんな音響空間がいかにぴったりかは容易に理解できたが、実際は想像を遥かに超えていた。
アルバム冒頭“スピーク・トゥ・ミー”のドラムが心臓の鼓動のように響く音から立体感が強まった“生命の息吹き”の流れで一気に内空間深部に連れ去られ、空港内を追いかけ回る“走り回って”では酩酊感すら感じさせられる。そんな前半のハイライトは時計やチャイムが鳴り響くなかデイヴ・ギルモアとリック・ライトが歌い上げる“タイム”で、間奏の名ギタープレイが、今回のドルビー・アトモスではまさに天空を駆け上がるかのようになり昇天させられるし、次の“虚空のスキャット”をさらに情感豊かにしている。
後半のアナログではB面1曲目“マネー”のレジスターに始まる鋭角的な響きやハモンド・オルガンとサックスが豊かに空間を作り上げる“アス・アンド・ゼム”も印象的だが、超絶すごいのは“狂人は心に”で、楽曲の原点ともなったシド・バレットを思わせる笑い声が空間に広がるところは、このアルバムがまだまだ違うどこかに向けて旅を続けているかのような気分を味わえた。
また4月19日には日本独自企画『狂気─50周年記念SACDマルチ・ハイブリッド・エディション(7インチ紙ジャケット仕様)』もリリースされる。以前発表された5.1chサラウンド・ミックスも含んだSACD / CDマルチ・ハイブリッド盤だが、嬉しいことに発表前の『狂気』の楽曲が披露されたことで知られる72年来日時のパンフレットやチケット等のコピーが特典としてついている。 (大鷹俊一)
ピンク・フロイドの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
Instagramはじめました!フォロー&いいね、お待ちしております。