【インタビュー】新たな黄金期を謳歌するパルプが、24年ぶりの新作『モア』を語り尽くす!

【インタビュー】新たな黄金期を謳歌するパルプが、24年ぶりの新作『モア』を語り尽くす!

パルプ、27年ぶりの来日公演の感動の余韻を吹き飛ばすように飛び込んできた、24年ぶりの新作完成の速報。日本のパルプ・ファンにとって、今年が何十年に一度レベルの当たり年なのは既に確定事項だが、さらには肝心のニューアルバム、『モア』が我々の期待を遥かに上回る仕上がりなのだから、夢が完璧に叶いすぎていっそ怖いくらいだ。パルプは前回の再結成時(11年)、新作の制作に挫折しており、今回も最初から新作ありきの再結成だったわけではない。パルプを再びやると決まったから、ジャーヴィスが自動的に曲を書き始めたわけではないのだ。それは幾つかの偶然が重なった末に、彼の中で芽生えた決意の産物であることが、本インタビューで語られている。例えば、スティーヴ・マッキーの死が、ジャーヴィスに生きていることの意味=表現者たることを、強く再認識させたように。その結果、彼は60代に差し掛かった今こそ歌うべきテーマを手にした。同時に、自分の人生を表現するのに、今も昔もパルプほど相応しいものはないと信じるに至った。彼らの人生の円熟期と、蒼き時代の象徴であるパルプの普遍化、このふたつが融合した奇跡が『モア』なのだ。(インタビュアー:粉川しの rockin'on 7月号掲載) 



【インタビュー】新たな黄金期を謳歌するパルプが、24年ぶりの新作『モア』を語り尽くす!

●27年ぶりにあなたたちが来日し、24年ぶりの新作も聴くことができる25年は、我々日本のファンにとって特別な1年になりました。素晴らしい新作の話の前に、まずは1月の来日の感想を聞かせてください。

「この前の日本滞在はかなり特別なものになったね。その理由のひとつとして、お正月の時期に行くのが初めてだったということ。大晦日に東京に着いて、そのままホテルに行って……日本の年末はUKほど大きなパーティをやらないと思うけど、むしろずっと好ましかった。時差ボケだったけど、ホテルのホワイエでちょっとしたバンド演奏をやっていて、それを観たんだ。東京は普段はすごく賑やかだけど、到着した次の日からもとても静かで、おそらくそれぞれの故郷に戻る人が多いんだろうね。元日に神社に行ったのもいい経験だった。あとはライブ後も滞在して大阪で太陽の塔を見に行ったけど素晴らしかったね……いや、すっかり自分の休暇の話をしてしまっているけど。京都へも行ったし、温泉に入る猿を見に行ったりして、君が言ったように日本は本当に長いこと行けていなかったし、僕の妻も一緒で彼女は初めての日本だったこともあって、僕も日本を再発見できて本当に特別な体験だったし、すごく楽しかったね」

●rockin'on sonicでは、パルプのライブを生まれて初めて観た観客も大勢いましたが、久々の日本で未知の観客と対峙しての手応えは? 

「よかったよ。というのもあそこに至るまでにかなり長いことやってきていて……始まったのが23年だったからね。2年間やってきたショウの最後が日本だったから、我々にとっても感慨深いものがあった。新しいアルバムを作ったから、今後のショウにはその楽曲も組み込んでいくことになるし、そしたらまたまったく別のものになるからね。それに日本でのコンサートとしてはこれまでで最大の規模だったんじゃないかな。日本でライブをやると言うとオーディエンスはどういう感じなのかっていうのが話題になるし、初来日のときにも『演奏中に、オーディエンスが動くことを期待しない方がいい。彼らはとても礼儀正しいから』と言われた記憶がある。でも、rockin'on sonicの観客はすごく活気があるように見えたから素晴らしかったよ」

●パルプの再結成は11年以来2度目ですが、今回、さらに踏み込んでニューアルバムを作ることになった最大の要因は何だったんでしょう?

「今回のツアーは、まずUKを皮切りにスタートしたんだけど、その前に『Light Falls』という舞台のために書いた曲があって、サイモン・スティーヴンスという素晴らしい劇作家が脚本を書いた作品で、彼に“ザ・ヒム・オブ・ザ・ノース”という曲を依頼されて、自分がそんな大仰なタイトルの曲を書くなんて考えたこともなかったけど、とにかく書いてみたら、その出来にことのほか満足して。それでツアーの弦楽器パートに取り組んでいるときにリチャードに聴かせたら彼も気に入って、この曲のストリングスアレンジを書き始めた。


それから、新たな街に到着してサウンドチェックをするたびに、この曲を演奏してアレンジの具合を確かめるようになり、しばらくしてかなり仕上がってきたと思えたから、確かシェフィールド公演の2日目だったかに披露したんだよ。それで新曲を演奏するのが何ともよい気分だったから、ツアーが終わりを迎えたときに、『もっと曲を書けるかどうか、やってみよう』ということになって実際に書いてみた。そしてマネージャーのジャネット・リーを招いて出来た曲を聴いてもらったんだ。彼女はひと通り聴いたあと、『持ち帰って週末にじっくり聴いて月曜日に感想を伝えます』と言った。だからとても長い週末になったよ。そして月曜日に『素晴らしい楽曲群だから、アルバムとしてレコーディングするべきだと思う』と彼女が言ったんだ」

●近年のあなたは、ソロやジャーヴ・イズでの活動もあり、執筆のように音楽以外にも表現のチャンネルを持っていますよね。そうした幾つものチャンネルの中で、パルプとしての表現はあなたにとってどんな意味を持つものですか? 他のプロジェクトと比べて、パルプはあなたのクリエイティビティのどんな部分が特に発揮される表現体なのでしょう?

「再びバンドとしてパルプの楽曲をやってみて気づいたのは、僕にとってそれは日記のようなもの、大人になるまでの自分の心と人生に起こったことを思い起こさせるものだということ。だからまあ、そのゾーンに入り込むというか、ある意味人生のその部分を生き直さなければならないから難しいけどね。肉体的にも年を取ると声が低くなるから、パルプの曲を歌うというのは今の僕にとってかなり努力を要することなんだ。ワーワーワーワーワー(高いしゃがれ声で)といった非常に高い音だから。ただ、年を取って曲のピッチを変えたりする人もいるけど、僕は自分の声を元の高さに戻そうと決めた。元のピッチで歌うことで、それらの楽曲に込められたエネルギーが解き放たれるに違いないと考えたんだよ。そしてそれこそが求めているものだから。例えば30年前の曲を演奏するにあたって、ちゃんと正しく演奏して曲のエネルギーに入り込めれば、それはもうまったく古く感じない、まるで今起きていることかのように感じられて、観客にもちゃんと伝わるんじゃないかと。実際にそうやってみて、昔のパルプ楽曲がいかなるものだったのかを思い出したから、それが新しいアルバムを作る上でいい出発点になったと思う。そして君が言う通り、僕は他のこともやっているわけだけれど、パルプをやろうと思い立ったのはすごく若い頃だったから、パルプは僕にとってポップミュージックみたいなもので……あくまで自分の記憶の中のポップミュージックであって、今ではもう存在しないものだけどね。今のUKチャートにどんな曲が入っているのかも知らないしさ。だからパルプは自分の心の中に存在する、自分が好きなポップミュージックを作る企てなんだ」

●本作では、曲作りより先に歌詞から書き始めたと聞いています。

「その通り。そして、それをとても誇らしく思っているよ。つまり『ディス・イズ・ハードコア』だったり、『ウィ・ラヴ・ライフ』だったり、これまでのパルプ作品では歌詞を書き終わる前にレコーディングを始めていて、その結果すごく時間がかかっていたんだ。ここはどの言葉を使うべきかといったことで自分の考えがコロコロ変わったりしていたから。今回はバンドを怖気付かせたくなくて……もし僕がアルバムを作ろうと言ったら『ああ……、人生の2年が費やされるのか』とか考えてしまうかもしれないと思ったから、『ちなみに歌詞はもう書いたよ』と伝えて。それでだいぶ気軽に考えてもらえたと思うし、実際レコーディングとミックスが3週間で終わったんだ。歌詞を前もって書けばすべてがスムーズに進むってことにもっと早く気づいていればよかったなと思う(笑)。僕は常に歌詞を書いていて、以前はノートに書いていたけれど、今はスマホでやってる。で、これまでに書いたものを読み返して、似たテーマについて書かれたものをフォルダにまとめ、それをテレプロンプターに入れて音楽をかけながら読み上げるという。そうやって歌詞を書いたんだ。すごく現代的でしょ?」
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