去るシルバーウィーク中盤の9月22日(火・祝)、スピッツの草野マサムネによる発案のもと実現した奇跡の合同公演:ロク漫祭 ~SPITZ 草野マサムネのロック大陸漫遊祭り~。スピッツへの影響や親和性を色濃く反映したラインナップが集結した本公演では、単に各アクトのステージが足し算的に連なるのではなく、それぞれの音楽性が呼応し合い、掛け算のような一体感が会場を包み込んだ。本記事では、洋楽アクトとして登場したティーンエイジ・ファンクラブ/ライドのステージの模様をお届けします!
キャリアを重ねるごとに、混声ボーカルによるハーモニーの深みを増していくティーンエイジ・ファンクラブ。一方、キャリアを重ねながらも、初期作品に刻まれた轟音と焦燥感を今なお体現し続けるライド。まったく異なる軌道を描きながらも、UKロックの根底に息づくメロディーの美学をそれぞれの形で描き出す両者。その現在地とは、いかなるものだったのか――。●ティーンエイジ・ファンクラブ
開演後、トップバッターを飾ったスピッツの熱演が終わると、10分ほどの場面転換を経てティーンエイジ・ファンクラブのステージが始まった。冒頭を飾ったのは“It's All in My Mind”。キャリア初期の躍動的なダイナミズムから、温かみのあるハーモニーとオーガニックなギターサウンドへと移行し、チェンバーな方向性に舵を切った『Man-Made』を代表する一曲だ。35年以上のキャリアを重ねつつも、相変わらず息の整ったノーマン&レイモンドのハーモニーに、ユーロス・チャイルズの高音コーラス/キーボードプレイが色彩を加える。2005年のアルバムリリース時にはスラッカーなテンションが魅力だった一曲だが、現在のバンドが奏でることで新たなテクスチャーが加わり、どこか根の力強さが楽曲から立ち上がってくる。バンドの体勢の変化によって過去の楽曲が新たな輝きを帯びる――それこそライブならではの楽しみ方だ。続く“Tired of Being Alone”では、原曲からの変化が実に興味深かった。インディーフォークに接近した昨今のティーンエイジ・ファンクラブの方向性と、源流にあるパワーポップ的なギタープレイのアンサンブルが特徴的な楽曲だが、この日の会場では、まるで完全なフォーク・アンセムへと深化したかのように響いた。原曲ではノーマンのボーカルを軸に、多層的なテクスチャーによって楽曲の芯を太くしていたのに対し、この日の演奏では、メンバー全員が対等な存在感を放ちながら、互いに呼応するように楽曲を鳴らしていた。その変化こそ、現在のティーンエイジ・ファンクラブが持つバンドとしての強度を物語っていたのではないだろうか。そして、それは10月9日にリリースを控える最新作『ドゥ・ノット・デア・トゥ・ドリーム』収録の新曲“デイ・イン・ザ・サン”の演奏でも強く感じられた。基軸にあるノーマン&レイモンドのコンビネーションを損なうことなく、それぞれのパートが有機的に共存していく。そのあり方は、オリジナルメンバーの2人を中心としながらも、メンバー全員のスキルと感性によってバンドを作り上げていくという、現在のティーンエイジ・ファンクラブの体勢を色濃く反映しているように感じられた。長年のキャリアを経るなかで関係性が硬直化していくバンドも少なくない。その一方で、変化を恐れず、さらなる先鋭化を恐れない彼らの姿勢には、深い敬意を抱かずにはいられない。もっとも、ティーンエイジ・ファンクラブが完全に変容してしまったのかと問われれば、そうではないと断言できる。その証明となったのが、ラスト2曲の“The Concept”と“Everything Flows”だ。両曲は、リスナーを滾らせる骨太なギターアンセムとして会場に響き渡った。ノーマンの力の抜けたボーカルから滲む切なさも、レイモンドのジャングリーで感情的なソロも健在。35年以上のキャリアを経てもなお、彼らが生み出す“いい曲”の普遍性は揺らがない。それどころか、そのレンジは現在進行形で広がり続けている。そのことを体感させられる一時間だった。
●ライド
ティーンエイジ・ファンクラブが深みのある穏やかなステージを演出した一方で、ライドは常に渦巻き、強く陸を打つ荒波のようなエネルギーで有明アリーナを飲み込んだ。登場とともに唸りを上げた“Leave Them All Behind”のイントロでは、アリーナの広大な空間を包み込む轟音が響き渡る。シューゲイザーの雄として象徴的な存在であるライドだが、その音像はもはやシューゲイザーという枠を超えるほどの重厚感をまとっていた。イベントの大トリにふさわしい存在感が、一曲目からひしひしと伝わってくる。一方で、そんな強靭かつ衝動的な演奏とは裏腹に、MCの様子はどこか微笑ましい。爆発的なオープニングを終えると、フロントマンのマーク・ガードナーが通訳者を横に、会場に詰めかけたファンと主催者であるスピッツに感謝の意を示した。マークと通訳者のやり取りには、時折わずかな噛み合わなさも感じられたが、むしろそうした場面も含めて彼らの親しみやすさが伝わってきた。冒頭の盛り上がりで言えば、2曲目の“Monaco”も特筆すべきだった。ノイズから距離を置き、ネオサイケへの回帰を試みた最新作『Interplay』からの選曲で、原曲ではシンセや電子ドラムによるニューウェイブ的なセンスも光る一曲だが、ライブでは完全にシューゲイザー的なアレンジへと回帰。もちろん、機材のセッティングによって再現可能なサウンドの方向性がある程度収束していた可能性もあるが、この方向への“味変”もまた乙なものだった。ダンサブルにもノイジーにも着地できる楽曲の汎用性。それは、ライドの根底にあるバギーなギターポップ/ジャングリーなメロディーの黄金比を示すものにも思える。そんなバンドのメロディーに対する誠実なメソッドが最も開花したのは、4曲目の“Twisterella”だった。ライドの中でも特に人気の高いナンバーだが、この曲のユニークな点は、彼らが珍しく轟音を払拭し、キャッチーさに全振りしたインディーポップであること。実際、この曲のエヴァーグリーンな音像は普遍的で、2026年現在に聴き直してもその新鮮さは少しも損なわれていない。なぜだろう、この曲をマークがウキウキと歌い、黙々とギターを弾き続ける2人の姿は、渋さを醸し出す現在の風貌とは裏腹に、とても若々しく映った。確かなキャリアを歩み、もはや教科書レベルのレジェンドとも言えるバンドだが、ライドの音楽には“花様年華”とも言うべきユースの輝きがある。それこそが、彼らの普遍性なのかもしれない。無論、ステージ後半戦もパッションに溢れた申し分のない演奏だった。“Dreams Burn Down”で音の波が空間全体から押し寄せてくるような感覚も、“Taste”でのマークとアンディの掛け合いも、“Vapour Trail”に漂う余白の耽美も、すべてが音源以上の強度をもって鼓膜を突き抜けていく。私事だが、自分はこれまで毎回タイミングが合わず、ライドのライブを見るのは今回が初めてだった。だからこそ、長年聴き続けてきた楽曲を五感で体感できたことは、極上の体験だった。(北川裕也)---セットリスト---●Teenage Fanclub
01.It's All in My Mind
02.Tired of Being Alone
03.About You
04.Falling into the Sun
05.Day in the Sun
06.I Don't Want Control of You
07.Everything Is Falling Apart
08.What You Do to Me
09.It's a Bad World
10.The Concept
11.Everything Flows●Ride
01.Leave Them All Behind
02.Monaco
03.Like a Daydream
04.Twisterella
05.Dreams Burn Down
06.Lannoy Point
07.Taste
08.Vapour Trail
09.Seagull
10.Chelsea Girl