日経ライブレポート 「椎名林檎」

東京事変解散から2年。椎名林檎が、5年半ぶりにソロ名義のアルバム「日出処」を発表、6年ぶりに「林檎博」と題されたアリーナ・コンサートを行った。大阪・福岡でも行われるこのツアーのタイトルは、「林檎博’14―年女の逆襲―」だ。いかにも彼女らしいユーモアを感じさせるタイトルだが、一体彼女は何に逆襲しようとしているのだろうか。

ここからは完全に僕の仮説で、彼女の発言等の裏付のあるストーリーではないが、僕は彼女が逆襲しようとしているのは、過去の自分と、過去の自分にまつわる数々の事象だと思っている。今回のツアーでは彼女の1作目、2作目のアルバムに収録された曲は歌われない。言うまでもなく、その2作は彼女の人気を決定付けた大ヒット・アルバムだ。「歌舞伎町の女王」「ここでキスして。」「ギブス」「本能」といった代表曲が収められている。しかしそのアルバムからは1曲も歌われない。

最新作「日出処」は新しい椎名林檎の物語のスタートを感じさせる力作だ。東京事変を解散しソロ活動に専念することを彼女が決めたのは、椎名林檎としての新しい世界観と物語を提示する手応えを得たからだ。それをライヴによって立証するのが今回のステージだ。ブラスやストリングスなどを含め、総勢37名のミュージシャンによって展開される音楽スペクタクルは圧巻。彼女は最新作について「目抜き通りを歩いている感じ」と語っているが、まさに目抜き通り感溢れるライヴ。初期作品の裏通り感はない。つまり彼女は初期作品を排除したわけではなく、今の世界観を表現する曲を優先してこうなったのだ。新しいスタートにふさわしいライヴだった。

11月29日、さいたまスーパーアリーナ。
(2014年12月11日 日本経済新聞夕刊掲載)
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