ロッキング・オン50周年記念号を作って思ったこと

ロッキング・オン50周年記念号を作って思ったこと
2010年代から2020年代の現在までの間でポップ/ロックのカルチャーは抜本的に変わった、というのが僕の考えだ。

70年代のパンク、80年代のヒップホップ、90年代のグランジなど、これまでに何度もポップシーンには革命は起きたが、今起きているこの大変化に比べればむしろ「修正」程度のことだったと思える。今、世の中でオリビア・ロドリゴやリル・ナズXやビリー・アイリッシュやBTSが起こしていることは、ポップミュージックの進化どころではなくて、価値観の転覆と言ったほうが近い。
15歳のビリー・アイリッシュは、あの密室的で陰鬱なビートミュージックで世界中を制した。13歳で俳優デビューしたオリビア・ロドリゴは、デビューアルバム1枚で屍と化していたポップパンクもポストグランジもアリにして音楽シーンを変えてしまった。ネットの住人だったリル・ナズXは18歳でカントリーラップでデビューしてからジャンルフリーなアルバムを叩きつけ、さらに未だホモフォビックなヒップホップにおいてあっけらかんとゲイのカミングアウトをしてMVでは全裸とウェディングドレスで踊りまくった。もう、Z世代はそれまでの世代の文化をぶっ壊しにかかっているのだ。容赦なく大胆で、かつテクニカルで緻密で、ロジカルだ。それが新しく画期的な音楽を生んでいる、ということが本当に素晴らしい。60年代みたいだ。
カントリー界から出てきてスターになり、ポップシーンも制したテイラー・スウィフトは、その次に保守層を敵に回す政治的主張に挑み、カニエ・ウェストとの対立に傷つきながらも背を向けず、AppleMusicとSpotifyに異議を申し立て、アーロン・デスナーとアルバムを作ってアンチとインディー至上主義者も黙らせる、という壮大な戦いを10年以上をかけて展開した。彼女が開けた扉は大きく、拓いた道は広いが、もうそこまでの消耗戦をしなくても、新たな世代のアーティストたちはよりしたたかで、より突き抜けている。

ロッキング・オンの50周年号を作り上げてから感じたのは、50年間のロック/ポップの歴史の重さとともに、その先へと向かう今の、2020年代のポップミュージックの鮮やかさだった。(山崎洋一郎)
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