ボブ・ディラン、『血の轍』本来の姿を明らかにするブートレグ盤リリース! 名作が名作となった所以とは


ボブ・ディランの最高峰傑作のひとつ、1975年の『血の轍』。1974年9月に行われたそのレコーディングの内実をつまびらかにするのが今回の『モア・ブラッド、モア・トラックス(ブートレッグ・シリーズ第14集)』だ。

そもそも『血の轍』がなぜそれほどの名作なのかというと、曲によっては限りなく弾き語りに近いボブの演奏の原点に遡りながら、どこまでも独白調に思えるパーソナルなテーマ性で貫かれるという、それまでありそうでなかったボブの作品世界がこのアルバムで見事に作り上げられたからだ。

ただ、実際にリリースされた『血の轍』には1974年9月のセッションのほかに12月の音源も収録されていて、バンドも使ったこの12月の音源が10曲中5曲も占めている。実はボブは9月の音源を聴いた弟から演奏がストイック過ぎると指摘され、急遽その弟デヴィッドのつてで招集したバンドで5曲録り直し、差し替えたのだ。しかし、弾き語りとパーソナルな作風による試みを突き詰めたという意味では、この作品の楽曲群の本来の魅力と凄味は9月の音源にあるし、その時録られた全曲の本当の姿を明かしてくれるのが今回のアルバムなのだ。


たとえば、オリジナル盤のオープナーにして名曲"Tangled Up in Blue"なども差し替えられた音源で、今回は弾き語りにギターとベースを重ねただけの音源が聴ける。正直言って、この静謐なパフォーマンスの中でこそ、このあまりにもドラマティックかつ奔放に綴られる過激な失恋譚はどこまでも引き立つともいえるのだろうし、ボブがそもそもこういう音としてこの作品を制作したのもそういう意図からだろう。

同様に"Idiot Wind"、"You’re a Big Girl Now"、あるいは"If You See Her Say Hello"、"Lily, Rosemary and the Jack of Hearts"などの『血の轍』の名曲群についても、本来のどこまでも研ぎ澄まされたバージョンが今回は聴けるのだ。

この作品の楽曲群はボブと妻サラとの関係のこじれを題材にしているとよく指摘されるが、ボブ自身はそれを否定している。もしボブの言う通りだとすると、この作品における自身の個人的な問題は無意識レベルでの影響にとどまっているということなのだ。そしてボブは意識的には、この作品でどこまでもパーソナルで独白調に思えるが実は普遍的な創作を試みたということなのだ。それが見事に成功して多くのリスナーの胸に響いたからこそこの作品は傑作となった。そしてその試みを最も忠実に追求していたのが、今回の『モア・ブラッド、モア・トラックス』で聴ける音源なのだ。しかしまた、1975年のオリジナル盤における措置も決して間違ってはいなかったのだ。(高見展)



『モア・ブラッド、モア・トラックス(ブートレッグ・シリーズ第14集)』の詳細は以下。


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