SMKCの東京公演を観た。「誰?」と思う読者もいるかもしれないが、正式名称はスラッシュ ft.マイルズ・ケネディ&ザ・コンスピレイターズ、スラッシュとマイルス・ケネディの間に起こる化学反応を軸とするバンドだ。そう、バンドなのだ。ここまでくると「スラッシュが共謀者たちを従えてのソロ・プロジェクト」みたいな呼び方はしたくない。そう感じさせられるライブだった。
1月17日、会場となった東京・新木場STUDIO COASTは誇張表現抜きで文字通りの超満員。しかもオープニング・アクトに起用されたデンマークの新鋭、H.E.R.O.(デビュー・アルバムは4月発売予定。こちらにも要注目!)の好演もあって、SMKCが登場する頃にはすっかり場内が暖まっていた。
SMKCのステージは、昨年9月に発売された最新アルバム「LIVING THE DREAM」の1曲目に収められていた“The Call Of The Wild”で幕を開け、以降、中だるみや過剰な勿体付けの一切ないまま、みっちりと2時間続いた。アンコールの2曲も含め、トータル22曲。そのうち最新作からのセレクトは全7曲にも及んだ。
この単純な事実からだけでも、今回の来日公演が新作発表に伴う、良い意味でごく普通のツアーであることは明らかだ。形式としてはスラッシュのソロ作品ではあったが、彼とマイルスとの合体の有効さを知らしめたアルバム『スラッシュ』が放たれたのは2010年のこと。続く『アポカリプティック・ラヴ』(2012年)からスラッシュはSMKCという名義を用いるようになり、『スラッシュ』も勘定に入れればこのバンドのアルバムは4枚を数える。もう自分たちの曲だけで充分にセットリストが組めるのだ。
この日、彼らが演奏したガンズ・アンド・ローゼズの楽曲は、“Nightrain”1曲のみ。ヴェルヴェット・リヴォルヴァーの楽曲も“Fall To Pieces”だけだった。が、その両バンドの曲を聴き足りないとは感じなかったし、むしろ結果的に「そういえばあの2曲しかやっていなかった」と気付かされた、というのに近かった。
実際、かつてのライブでは、GN’Rの楽曲が披露された際にあからさまに客席の温度が上がるのを感じさせられたこともあった。ファンもあらかじめそれを期待していたはずだし、なにしろGN’Rが現在のような形ではなかったのだから当然といえば当然だ。そしてGN’Rが新たな現在進行形を手に入れている今、ファンがSMKCに求めるものが変わってきているのもまた当然だといえる。
この夜も確かに“Nightrain”での盛り上がり方は際立っていた。が、それは、GN’Rの楽曲がひとつに絞り込まれていたからこその特別感の強まりゆえであったはずだし、それ以上に筆者には「ああ、気が付けばSMKCはもはや自分たちのキラー・チューンのみでセットリストを組めるバンドになっているんだな」という感慨のほうが大きかった。
現在のロック・シーンにおける最高峰ボーカリストというべきマイルスはもちろん、各メンバーの貢献ぶりも素晴らしい。ことに中盤で、そのマイルスに代わって2曲でリード・ボーカルをとってみせたトッド・カーンズ(b)は、このバンドのライブに新鮮な彩をもたらしている。そもそもボーカル歴のある彼には人を惹きつける華があるし、その歌声はマイルスのそれとの相性も良く、2人がハモる場面では、まるでマイルスが一人二役で声を重ねているようにすら聴こえるのだ。
そして肝心の首謀者について多くを書かずにきたが、スラッシュのギターは見事なまでに冴えわたっていた。元来、歌の邪魔をするギタリストが好きではない僕だが、あれほど弾きまくっているのにまったくそんなふうに思えないのは、彼のギターもまた、マイルスと一緒に歌っているからだろう。
年明け早々、シンガポールやタイ、韓国でのライブを経て日本上陸を果たした彼ら。この先には中国、オーストラリアと順延を続け、ツアーはその先も舞台を欧州に移しながらまだまだ続いていく。今回の来日公演について唯一、不満なところがあるとすれば、公演本数が大阪、東京で各1本しかなかったことだ。両公演の終了直後、スラッシュは「どうもありがとうございます!」と日本語でツイートしており、彼自身も満足を味わったことがうかがえるが、一刻も早く、彼が同じ言葉を呟く日が訪れることを願いたい。SMKCの親玉としてももちろんだが、GN’Rの一員としても。(増田勇一)