暮野英司 (16歳)
LIVE DI:GA JUDGEMENT@渋谷CLUB QUATTRO
毎年12月にディスクガレージによって開催されている年末ライブイベント、LIVE DI:GA JUDGEMENT。一日目の今日は渋谷CLUB QUATTRO、TAKE OFF 7両会場で、年の瀬にふさわしいバンド達による素晴らしいライブが展開された。このレポートでは渋谷CLUB QUATTROで行われたライブについて感想を述べていく。

青く光るステージの前、これから始まる祭りを心待ちにするオーディエンスの高揚感が会場を包む中、照明が落とされ、森林と鳥たちの歌が響く中トップバッターとして登場したのはCzecho No Republic。「初めまして! 名前だけでも覚えていってくださいね!」と挨拶すると、性急なドラムビートに続いてリード・チューン、「Amazing Parade」を披露。続く「ネバーランド」、年末ということでひつじに絡めた軽快な客いじりをはさんで「Festival」「MUSIC」「No Way」と、翌日CDJのカウントダウンも務める、今日本で一番勢いのあるバンドの一つである彼らが、5人一つになって素晴らしいシンセ・ロックを繰り広げていく。その姿はまさに「最高のパレード」そのものだった。最新アルバムから「Firework」、そしてオーディエンスに今年の感謝と来年への抱負を述べると、オレンジのライトが照らす下、早くもラスト「Oh Yeah!!!!!!!」へ。会場に広がるシンガロング。これ以上ないベストなセットリスト。一番手にふさわしい濃密な時間だった。

二番手として現れたのは神戸のマルチ・ミュージシャン、シンリズム。高野勲(Key)、小松シゲル(Dr)、藤井謙二(Gt)、酒井由里絵(Ba)、西岡ヒデロー(Per,Tp)というバックバンドを従えた彼は、弱冠18歳とは思えない洗練されたアーバン・サウンドでクアトロを包み込んだ。一曲目「手のなる方へ」を終えるとコーラスとしてゲスト、宮崎朝子(SHISHAMO)を紹介。彼女を交えて二曲目「superfine」へ。春の高速道路をかけぬけるような爽快なナンバーでオーディエンスをゆったりと揺らした。「先週冬休みが終わったんですけど…年末にこのようにライブをすることができて非常に…楽しいです。」と高校生らしい一面を見せる。続く「Music Life」は、彼が音楽へ贈るラブソング。「音楽と生きてく そんな暮らししたいな 何年先の未来になっても」というフレーズを聞いて、数年後の彼がどんなサウンドを奏でているのか、無限の想像を掻き立てられた。最後は「心理の森」。それこそ、抜け出すことのできないような恍惚の中で今年のライブを締めくくった。

続いて登場したKeishi Tanakaは軽快なソウル・ナンバー、「Wonderful Seasons」から始まり、「It’s Only My Rule」では、ミラーボールが輝く中、ステージから降りオーディエンスの間を歩き回り、手すりに上がって歌うなど観客を大いに盛り上げた。「こんなふうに楽しんでくださいね!」と観客を煽りたてる。その言葉通りに観客は手を振り、体を揺らして、心地よいグルーヴを生み出すバンド、高らかに叫び上げるブラス、そしてKeishi Tanakaの歌声に酔いしれた。ここで完全にクアトロの心を掴んだ彼は、次々とソウルフルで強力な楽曲を展開。最後から二曲目で披露したのは1月13日に発表されるシングル曲「Hello, New Kicks」。鋭いカッティングで魅せるダンサブルなディスコ・ファンク・ナンバーに会場は更に熱気を高めていく。ラストは「Floatin' Groove」。キラキラと回るミラーボールと夕陽のように輝く赤いライト、感動を誘う素晴らしいメロディとグルーヴ。このままフェスが終わってしまっても全く構わないとすら思わせてくれるような大団円で幕を閉じた。

9月にセカンドアルバムを発表したばかりながら、今年のネオ・シティ・ポップ・ムーブメント(安易にこの言葉で片付けるべきものではないが…)を牽引する存在の一つであるAwesome City Club。一曲目の「GOLD」から、フワフワと歪むギターと美しいコーラスが、圧倒的な多幸感に作用する。「皆さん仕事終わりましたか? 思い返すといろいろなことがあったでしょう、あいつが左遷されたり、学校ならあいつの成績が上がったり、あいつとあいつが付き合ったり…」とオーディエンスを労う。そしてPORIN(Vo,Syn)がマイクを取り、彼女がリードボーカルを取る「四月のマーチ」へ。意味ありげな挙動をしながら揺れる彼女に会場は釘付けになった。「Lesson」を挟んで、atagi(Vo,Gt)が再びMC。「CDJとは違う盛り上がり見せてくれるよね? ここに来てるってことはCDJ蹴ってるんでしょ?」と笑いと拍手を誘い、「アウトサイダー」へ。高揚したオーディエンスの体の揺れは大きくなっていき、「涙の上海ナイト」では「トン・ナン・シャー・ぺー」のシンガロング。彼らにとって幸福すぎるライブ納めであった。

シティ・ポップの再興と同時並行して行われたのが、所謂「渋谷系」サウンドに対する再評価である。次に渋谷クアトロに姿を見せたのは、そんな渋谷系を代表するバンドであるNONA REEVES。3人のメンバーにベース、キーボード、コーラスを加えた6人編成である。コール・アンド・レスポンスで会場を煽りたて、「Wee Like It!」へ。80’s洋楽ポップスの影響を色濃く受けたファンキーで、それでいて楽しさに溢れた楽曲が彼らの売りだ。そして名曲「Love Together」。そのイントロだけでオーディエンスは歓喜の声を上げ、長年のファン、若いファンが思い思いに体を動かした。「こういう年末イベントに出るのは数年ぶりなんですけど、朝起きたら声がカスカスになってて…だから今日は勢いで乗り切ります」と西寺郷太(Vo)がこのイベントへの思いを語る。「Love Alive」ではメンバー一人一人がソロを回す。見事なギタープレイを見せた奥田健介(Gt)により大きな歓声が上がった。最後は「New Soul」。彼らのライブは全編通してオーディエンスのシンガロングに溢れていた。

クアトロ6番手であるUNCHAINはリハーサルで「丸の内サディスティック」のカバーを披露。動画サイトで100万を超える再生を稼いだこのカバーで彼らを知った者も多いのであろう、会場はこのサプライズに大きな拍手で応えた。ライブは「Come Back To Me」からスタート。気が付けば18時を回り、夜の様相を見せ始めた渋谷の街を歓迎した。CDでは決して味わえない勢いとグルーヴに、彼らは素晴らしいライブ・バンドなのだと実感させられた。「今年邦楽で一番洋楽に近かった曲をやります!」と叫び、「Kiss Kiss Kiss」を披露。日本人離れしたアダルティなソウルに会場はさらに酔いしれた。「今年キスした者だけkiss kiss kissで返してください」と煽ると、会場の1~2割がそれに応えた。「You Over You」「Get Ready」と展開していくにつれて彼ら4人の演奏は濃厚に絡み合い、官能的なグルーヴを増していく。躍動するオーディエンスの心。あの時、クアトロは外から隔離されたディスコ空間となっていた。

次に現れたのはメレンゲ。人の心を揺さぶる歌詞と叙情的なバラードが売りの彼らだが、今回はアップテンポな曲で攻めていく。プログレッシヴ・ロックやハードロックの空気感すら感じる熱を帯びた演奏。二つのギター・フレーズが精巧に絡み合う。「お祭りなんで盛り上がりそうな曲を選んでみました」と語り、「年末呼んでくれるのはこのディスクガレージのイベントくらいです」とプロモーターに感謝を述べる。「でも最後の曲は……こういう季節なんで」と披露したのは「ユキノミチ」。クボケンジ(Vo,Gt)の感傷的なボーカルから繰り出される、冬の別れを綴った純粋で美しいラブソング。そこに力強くも儚いギターが加わり、メレンゲにしか表現できない青春文学ロックの世界がクアトロを包みこみ、見る者の涙を誘った。ずっと一緒にいたくても、時はそれを許してはくれない。永遠に思えたライブもあと2つのバンドを残して終わりという現実が迫ってきた。

2015年にメジャー・デビューし、「ポップでポップなロック」の求道者として躍進を果たしたShiggy Jr.。「Listen To The Music」から明るくキラキラしたディスコサウンドが飛び交う。一方で叙情的なミドル・バラードの「サンキュー」から性急なダンスロック「oyasumi」まで、彼らの懐の深さも見せた。しかし、あくまでサウンドはポップ。ボーカルの池田智子はそのキュートな声でMCを取り、初のワンマンライブの会場でもある渋谷クアトロのリスナーに今年の感謝を述べた。2015年の夏を象徴するキラーチューン「サマータイムラブ」を会場に響き渡らせ、締めの曲は「Saturday Night To Sunday Morning」。「私、しつこいですからね(笑)」という池田の言葉通り、あまり声の出ていない後方に対してシンガロングを何度も煽り、前方のファンに後ろを向かせて歌わせるといった一幕も見られた。「Saturday night to Sunday morning、朝まで踊りとおせ」と、いうキーフレーズにどこか寂しさを感じさせながら、大盛況の中、彼らは去っていった。

トリを務めるthe band apartを前に、クアトロは今日一番の盛り上がりを見せていた。リハーサルでクアトロは既に躍動。本編は印象的なギターリフで幕を開ける「Eric.W」から始まり、ジャンプする会場は更なる熱狂へと突入していた。間髪容れずに「Higher」、「禁断の宮殿」と代表曲から今年の楽曲まで惜しみなく披露し、オーディエンスは一曲一曲に歓声を浴びせた。
4人は落ち着いた様子で会場を見回し、荒井岳史(Vo,Gt)、原昌和(Ba,Cho)はそろってジョークを飛ばして観客の笑いを誘う。一方で4人が一体になって構築する、あらゆるジャンルを吸収した極彩色のバンアパ・サウンドが果敢に鳴り響く。知的に唸るベース、エネルギーに溢れたドラム、テクニカルで、それでいてパワフルなギター。そこに合わさる決意に満ちたボーカルと美しいコーラス。彼らのロックバンドとしての誇り高き貫禄がそこにはあった。22時の渋谷に似合うことこの上ないラストの「夜の向こうへ」が終わってもなお聴き足りないオーディエンスの願い通り、彼らは再びステージに姿を現し、アンコールに「beautiful vanity」を投下。こうして渋谷クアトロの2015年を締めくくる最高の一日、最高のライブは幕を閉じた。