仮面を脱いだマルチな才人

ジャネール・モネイ『ダーティー・コンピューター』
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ALBUM
ジャネール・モネイ ダーティー・コンピューター

歌い手、ソングライター、プロデューサーとしてただならぬ才能に恵まれていながら、完全にメインストリームに突き抜けるに至っていなかったジャネール。それは恐らく、過去2枚をSF的なコンセプトに基づいたシリーズ作品として制作し、敷居が高い印象を与えたことと無関係じゃないだろう。だが近年女優としても知名度を上げ、その追い風の中で登場したこの約5年ぶりのサードは、アウトサイダーであることを自認しつつも広いオーディエンスを想定して作られ、決定打として繰り出されたことが窺い知れる1枚だ。

分かりやすいところで言うとまずは、ポップ畑の売れっ子を積極的に起用したコラボレーター陣だろうか。と同時に、スティーヴィー・ワンダーやブライアン・ウィルソンら目を引くゲストを配し、師匠プリンスのスピリットに導かれて鳴らすエレクトリック・トラップ・ファンク・ポップは、いたってキャッチー。音楽的には従来のほうがプログレッシブだった。かつ今回はキャラを演じるのではなく、SFよりストレンジな2010年代を生きるブラック女性としての素の彼女の視点を貫き、欠点も含んだセルフ・ポートレイトを描く。メッセージもいたってシンプルだ。肌の色、ジェンダー、セクシュアリティ、信条が、自分が自由に生きることを阻む壁になるという現実を浮き彫りにし、抑圧する力への抵抗を呼びかける。つまり本作は、ポスト・ブラック・ライブズ・マター/フェミニズム第4波時代に捧ぐアンセム集にほかならない。そこからはもちろんアメリカの政情へのフラストレーションも聞こえるが、ジャネールの関心事は専ら、女性性のセレブレーション。自分が解放されることは、アメリカそのものが解放されることを意味するのだと説いているかのようだ。(新谷洋子)



『ダーティー・コンピューター』の詳細はこちらの記事より。

ジャネール・モネイ『ダーティー・コンピューター』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」7月号に掲載中です。
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ジャネール・モネイ ダーティー・コンピューター - 『rockin'on』2018年7月号『rockin'on』2018年7月号
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