これこそ美しきガンズ、そして美しきリスナーの欲望の形

ガンズ・アンド・ローゼズ『アペタイト・フォー・ディストラクション [スーパー・デラックス・エディション]』
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ガンズ・アンド・ローゼズ アペタイト・フォー・ディストラクション [スーパー・デラックス・エディション]

ロック・リスナーも30代や40代になると、「アーティストと一緒に年齢を重ねる」ということを実感として味わう機会が増えるが、もしかすると、ガンズ・アンド・ローゼズのファンというのはその「アーティストと一緒に年齢を重ねる」感覚において、最も辛酸を舐めている部類に入るのではないか。そんなことを、2017年初頭の来日公演で考えていた。スラッシュやダフ・マッケイガンが復帰したラインナップはもちろん嬉しかったし、演奏そのものに不満があったわけではない。往年のガンズ曲は間違いなくスラッシュのギターの強烈な記名性と共にあるべきだ、と再認識させられたし、ダフのスマート&ダンディな佇まいはすこぶるかっこ良かった。それにひきかえ、なのである。人の容姿のことをとやかく言うべきではないのかも知れないし、骨折を押して車椅子でステージに臨むような近年の状況もあったからだろうが、一度は持ち直してきたはずのアクセルのルックスが、あまりにあんまりなのだ(現在のライブ動画を観ると、あらためて少しシェイプ・アップされているようで何より)。いつになっても、あの美しき悪童の頃の彼と比べてしまう。

少なくともポップ・ミュージックにおいて、音源作品のリマスターやテクノロジーの進歩に伴う音質向上の創意工夫とは、つまり時流の中で相対的に経年劣化する「あの憧れのサウンド」を蘇らせたいという、リスナーの欲望の表れに他ならない。アクセルの日本語版Wikiページに掲載された彼の写真を差し替えてやりたい、と思うのと同じくらい強く、ガンズの音源作品はいつまでも眩く危ういものであり続けて欲しい、と願わずにはいられないのだ。

1987年のデビュー・アルバム『アペタイト・フォー・ディストラクション』、30年の時を経た初のリマスターである。ことロック作品のリマスターでは、明瞭になり過ぎた音の分離がリスニングの手応えをガラリと変えてしまうこともあって難しいのだけれど(これなどはまさにリスナー側のエゴイスティックな欲望と言える)、本作では例えば“イッツ・ソー・イージー”のイントロでも明らかなように、音の分離と密度が最適解といえるバランスを保っている。この見事な落としどころには、全力で拍手を送りたい。これこそが『アペタイト〜』だ、ガンズ登場の衝撃だ、と誇らしい気持ちになる。

僕が今回触れさせてもらったのは、SHM-CD4枚組+Blu-ray1枚のスーパー・デラックス・エディション。ざっくりと説明すると、ディスク2には『GN’Rライズ』に再収録されることになるファーストEP(デモを疑似ライブ音源として加工した)やB面曲などを収録している。もちろんこちらにもリマスターが施されており、アコースティック版“ユー・アー・クレイジー”の生々しい臨場感には思わず驚かされる。続いてディスク3と4には、1986年のLA、サウンド・シティ・スタジオにおいて行われたセッションの記録が収められている。がっちりと作り込まれた完成形とは趣が異なるが、企みを起こし、剥き出しの音像で猛りまくる若きガンズのパフォーマンスは真剣そのもの。胸をヒリヒリとさせるほどの聴き応えを誇る音源になっている。ディスク3の終盤に配置された、ハード&ヘヴィなドライブ感で迫る“ハートブレイク・ホテル”、そして痛快極まりない爆走を繰り広げてみせる“ジャンピン・ジャック・フラッシュ”といったカバーでは、LAメタルに遅れて登場した彼らが、グラマラスでセクシーなロックンロールの決定的な香しさを思うさま振りまいている。

なお、ディスク4の冒頭に収録された“シャドウ・オブ・ユア・ラヴ”は前身バンドのハリウッド・ローズ時代からあるレパートリーで、この5月にはリリック・ビデオが公開された。セッション音源の方の暴走ぶりもヤバい。さらに、ガンズ結成前からの存在が語られながら『ユーズ・ユア・イリュージョン』の季節まで日の目を見ることがなかった、アクセル渾身の名バラード“ノーヴェンバー・レイン”も、2つのセッション音源として残されている。10分を超えるピアノ・バージョンは、重厚なストリングスを含む完成版のバンド・アレンジと比べても、芯の部分の美しさが際立っていて感涙必至である。

Blu-rayディスクは未確認なのだが、こちらにはBlu-rayオーディオによるハイレゾ+5.1chサラウンドの本編とボーナスの音源、そしてMVの数々が収められている。つまり、CDの次の時代のリスニング環境を見越した作品として、パッケージされているというわけだ。本編とハイライトのSHM-CD2枚組で構成されたデラックス・エディションや、アナログ盤を含む超豪華ボックスも用意され、まさに
30年後の先を生きる『アペタイト〜』である。(小池宏和)



『アペタイト・フォー・ディストラクション [スーパー・デラックス・エディション]』の詳細はこちらの記事より。

ガンズ・アンド・ローゼズ『アペタイト・フォー・ディストラクション [スーパー・デラックス・エディション]』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」8月号に掲載中です。
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ガンズ・アンド・ローゼズ アペタイト・フォー・ディストラクション [スーパー・デラックス・エディション] - 『rockin'on』2018年8月号『rockin'on』2018年8月号
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