美意識に彩られた鮮烈なデビュー・アルバム

ペール・ウェーヴス『マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ』
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ALBUM
ペール・ウェーヴス マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ

現在の英国ギター・バンド/インディ・ロック勢の活況を象徴するホットスポットといえば、ご存知サウス・ロンドン。兄貴分のファット・ホワイト・ファミリーを筆頭に、シェイムやゴート・ガール、ドリーム・ワイフ、あるいはビッグ・ムーンといったリスナーの間では今やお馴染みの顔役に加えて、HMLTDやアラスカラスカ、ハニー・ハーズなど次のブレイクが期待される新鋭。その中心には、地元の魅力的なベニューや「ソー・ヤング・マガジン」のような若くて新しいメディアによって形成されたコミュニティがあり、また、その周りには、音楽性は異なるがロイル・カーナーやコスモ・パイクに代表されるエクレクティックなシーンが互いを視野に収める距離で隣接している。そうした全体を取り巻く状況としての厚みや懐の深さが、サウス・ロンドンにおける機運の高まりを促していることは間違いない。

一方、同様にそのサウス・ロンドンと並ぶ「震源地」として挙げられるのが、イースト・ロンドンに構えるインディ・レーベル〈ダーティ・ヒット〉だろう。名実ともに英国No.1バンドの座に君臨するThe 1975、去年のアルバム『ヴィジョンズ・オブ・ア・ライフ』で一躍シーンのトップに躍り出たウルフ・アリスらを擁し、今やワールドワイドにその存在感を示す同国のギター・バンド/インディ・ロック勢における要衝。気鋭を発掘する目利きには定評があり、有望株のキング・ナンやスーパーフードもすでにチェック済み、という耳聡いリスナーは少なくないはず。そして、そんな同レーベルから満を持してデビュー・アルバムをリリースするのが、先日のサマーソニックでも素晴らしいパフォーマンスを披露したマンチェスターの4人組、ペール・ウェーヴスである。

ボーカルのヘザーとドラムのシアラが地元の音楽学校で出会い、いわく、ふたりで曲を作り始めた当初はフォーキーなテイストだったというペール・ウェーヴス。しかし、程なくして〈ダーティ・ヒット〉にフック・アップされる頃には転身を遂げ、そのデビュー曲“ゼアズ・ア・ハニー”ではすでに現在の彼らのスタイルを聴くことができる。公言するキュアーやコクトー・ツインズの影響を汲んだドリーミーで耽美なニュー・ウェイヴ志向のサウンドで、浮遊感があり多彩なスペクトルを含んだギターやシンセの音色はかれらを規定するトーンだといっていい。The 1975のジョージとマシューが共同でプロデュースを手がけた“テレヴィジョン・ロマンス”、アンビエントなテクスチャーをたたえた“シー”、そしてヘザーが17歳か18歳のときに書いた“キス”といった既発曲は、このデビュー・アルバムにおいても中心を占めている。そしてヘザーによる、パーソナルな体験や心情を元にして綴られたダークで悲痛さを滲ませた歌と相まって、聴き手の心を揺さぶるようなストーリーがドラマチックに展開されていく。

しかし、そうした一連のシングル曲を通じてみずから振り撒いてきたセルフ・イメージも、あくまで彼らの一面に過ぎない。そのことを実感させるのが、今作のために用意された新曲。スロウなリズムでR&Bのテイストが打ち出された――直近のチャーチズも連想させる“ラヴレス・ガール”や“ホエン・ディド・アイ・ルーズ・イット・オール”。ヘザーが今作のフェイバリットに挙げているダンス・フィールに溢れた“ケイム・イン・クロース”。なかでも、彼らのファンにとっても大きなサプライズと思われるのが、打ち込みのビートを多用し、EDMかと聴きまがうアップリフティングな高揚感をもたらす“レッド”だろう。かねてよりマドンナプリンスといった80年代のポップ・ミュージックに対する愛着も明かしていたヘザーだが、彼女いわく、バンドにおけるこの手のプロダクションは、ヒップホップやクラブ・ミュージックの熱心なリスナーでもあるシアラによるところが大きいらしい。聞くところによれば、“レッド”もそもそもはラストの“カール(アイ・ワンダー・ワット・イッツ・ライク・トゥ・ダイ)”のようなフォーキーな弾き語り風の曲だったとか。また、既発曲だが“ブラック”ではダブステップ風のトラックも聴き取ることができるなど、ゴスなルックが与える先入観を超えて幅が広い音楽的なポテンシャルが今作では示されている。

デビュー・アルバムにして、すでに自分たちのスタイルや美意識を確立しているような風格さえ漂わせた今作。今年2〜3月に行われた本国ツアーは15公演すべてをソールド・アウトさせるなど大きなセンセーションを巻き起こしているかれらだが、今作のリリースが状況をさらに加速させることは必至。これからの展開に期待したい。(天井潤之介)



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ペール・ウェーヴス『マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」10月号に掲載中です。
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ペール・ウェーヴス マイ・マインド・メイクス・ノイジーズ - 『rockin'on』2018年10月号『rockin'on』2018年10月号
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