今年の夏をぶっちぎった、超“攻めコーデ”の勝者アルバム

トラヴィス・スコット『アストロワールド』
発売中
ALBUM
トラヴィス・スコット アストロワールド

2018年のヒップホップ界が盛り上がっている要因のひとつは、いわゆる「キュレーター」タイプのラッパーの躍進にあると思う。数ヶ月前にレビューしたエイサップ・ロッキーもそうだし、今回のトラヴィス・スコットもそう。彼らの「アルバム制作」に対する基本姿勢は、洋服屋に喩えるなら「セレクト・ショップ」の感覚に近い。この世界にはクールな服を作るデザイナーが山ほど存在する。なのに、なぜ1個のブランドで我慢しないといけないのか? ジャケットもシャツも靴も、欲しいアイテムは別々に揃えればいいじゃん。それと同じで、プロデューサーもコラボ相手も、固定しないで曲ごとに替えればいいじゃん。でも、そうなると、大事なのはコーデ(アルバム)全体のトータル戦略だ。そこがショップ・オーナーの腕の見せどころであり、トラヴィス・スコットは、今のヒップホップ界で最高の凄腕スタイリストなのである。

この『アストロワールド』は、彼にとって通算3枚目、16年の『バーズ・イン・ザ・トラップ・シング・マクナイト』以来のアルバム。題名の“アストロワールド”とは、トラヴィスの故郷=テキサス州ヒューストン(NASAの宇宙センターの街でもある)で05年に閉園になった遊園地の名前だという――言い換えると、本作は、トラヴィスが故郷の街へ捧げたラブレターである。と同時に、ある意味『ブレードランナー2049』的に壮大で、トリッピーな「ファンタジーSFライド」への招待状でもある。

キュレーター型の宿命ゆえ、ゲストの数が多いのは当然だけど(ドレイクフランク・オーシャンサンダーキャットまで!)、今回の楽曲群は、曲の構成的にも通常のヒップホップの域を超え、大胆に進化している。“ストップ・トライング・トゥ・ビー・ゴッド”では、3分を過ぎた辺りからジェイムス・ブレイクの堕天使的に美しいボーカルが曲を突然ハイジャックし、そこにスティーヴィー・ワンダーの昇天的なハーモニカの響きが絡む。テーム・インパラのケヴィン・パーカーが参加した“スケルトンズ”は、ザ・ウィークエンドとの幻夢的な競演……だけど、なんと2分半で終わっちゃう。各ゲストの費用対効果で考えると、どの曲も贅沢すぎるほど贅沢な作りだ。

でも、その「もったいなさ」は、逆に見れば「妥協なき姿勢」の裏返しとも言える。今のトラヴィスのトータル・コーデにおいては、ボタン1個の色の違和感も許されないのである。ヘッドフォンでじっくり聴き込めば聴き込むほど楽しい、2018年最強のサイケデリック・トラップ・ワールドへようこそ。(内瀬戸久司)



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トラヴィス・スコット『アストロワールド』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
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トラヴィス・スコット アストロワールド - 『rockin'on』2018年11月号『rockin'on』2018年11月号
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