2018年のダンス・マニアに捧ぐ、レトロじゃない復活作

ナイル・ロジャース&シック『イッツ・アバウト・タイム』
発売中
ALBUM
ナイル・ロジャース&シック イッツ・アバウト・タイム

ナイル・ロジャース(ギター)とバーナード・エドワーズ(ベース)を中心に結成され、70年代の後半、“おしゃれフリーク”や“グッド・タイムス”や“愛してほしい”などなど、数々のダンス・クラシックを世に送り出したシック。ディスコ・ブームを支えた伝説のアーティストの中でも、彼らほど「ファンキー」でありながら、同時に「高級感」に溢れるグルーヴを奏でられたグループは、他にいなかった。リズミカルなギター・リフ(チキチキ、チキチキ、チッチキチキチキ〜的な)とヘヴィなベースライン(ブブン、ブンブブン!〜的な)の完璧なシンクロから生まれる至福のサウンドは、のちのクラブ・ミュージックの発展にも多大な影響を与えた。90年代のハウスも、00年代のダンス・ロックも、そして現代のEDMポップも、ある次元において、みんなみんなシックの子供たちだ。

ただ、シックの実働期間は短く、80年代初め(その頃にはディスコのブームは早々と終わっていた)には事実上の解散を迎える。その後、ナイル・ロジャースはプロデューサーとして大活躍し、デヴィッド・ボウイの『レッツ・ダンス』やマドンナの『ライク・ア・ヴァージン』などのヒット作を手がけた。一方のバーナード・エドワーズもデュラン・デュランのメンバーらと結成したスーパーバンド、ザ・パワー・ステーションなどで成功を収めるが、96年にわずか43歳の若さで急逝。ふたりがシック名義でいっしょに作ったアルバムは、92年の『シック・イズム』が最後の機会となってしまった。
 
00年代以降になると、ロジャースは「過去の人」になりかかっていた時期もあり、11年に前立腺ガンの治療中であることを公表するなど(現在は無事に完治)、体調面の不安が報じられることも多くなった。が、しかし! 13年、ダフト・パンク&ファレルとコラボした“ゲット・ラッキー”が世界中で大ヒット。新世代のファンを一気に獲得し、「ダンス・ミュージック界のレジェンド」として今また脚光を浴びていることはご存じのとおり。その“ゲット・ラッキー”の歌詞を借りるなら、ギリシャ神話の「フェニックス=不死鳥」の伝説のごとく、回り巡って、時代は再びシックなのである。

そんな再評価の気運が高まる中、9月28日にリリースされた本作『イッツ・アバウト・タイム』は、かねてから噂されていたナイル・ロジャースの大復活アルバム。シック名義としては、前述の『シック・イズム』以来、実に26年ぶり(!)の最新作ということになる。

でも、「2018年のシック」に何を期待すればいいのか? ただの「ノスタルジー祭り」になってたら、どう反応すればいいのか?……正直、聴く前はそう思ってたけど、そんな心配はすべて取り越し苦労だった。本作は「もしもシックが80年代に解散せず、その後もずーっと現役だったら、2018年にはどんな音楽を作っていたか?」という命題と真正面から向き合った、とってもとっても「同時代的」なポップ・アルバムである。ナイル・ロジャースは、レトロの道には逃げなかったんだ。

全体の構成はコラボレーション・アルバム風になっていて、曲ごとに異なるゲストのボーカル(時には複数のコンボ)が登場する、格付けランクで言うと、いちばん豪華なのはエルトン・ジョンレディー・ガガだ――でも、このアルバムの聴きどころは、そのふたりの曲ではなく、むしろアルバムの前半に固められた、現在売り出し中の「若手アーティストたち」とのコラボ曲である。

共同プロデューサーにムラ・マサを迎え、ヴィック・メンサの軽快なフロウのラップを堪能できる“ティル・ザ・ワールド・フォールズ”。注目のUKネオソウル・シンガー、NAO(ネイオ)のポップな歌声とドープなベースラインが幸せに絡み合う“ブギー・オール・ナイト”。そしてUKヒップホップの「最終兵器」女ラッパー、ステフロン・ドンがバッドに暴れまくる“ソーバー”――もちろん、ロジャースの十八番である「踊るしかない」ファンキーなギター・リフも、さまざまなバリエーションを楽しめる。チキチキ、チキチキ、チッチキチキチキ。

かつてのシックと比べれば、どの曲も、そこまでエロくない(そう、かつてのシックはファンキーで、高級感があって、そしてエロかった)。その代わり、ダンス・ミュージックの「FUN(楽しさ)」の部分をとことん楽しんでいるアルバムであり、それこそが、現在66歳のナイル・ロジャースがたどり着いた、人生の「極意」なのだと思う。収録曲は全11曲。「少なすぎるよ!」という声もあるだろうけど、この続きは、早くも2019年にリリース予定だという「復活第2弾」アルバムに乞うご期待!ってことで。(内瀬戸久司)



『イッツ・アバウト・タイム』の詳細はUNIVERSAL MUSICの公式サイトよりご確認ください。

ナイル・ロジャース&シック『イッツ・アバウト・タイム』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

ナイル・ロジャース&シック イッツ・アバウト・タイム - 『rockin'on』2018年12月号『rockin'on』2018年12月号
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