繰り返しの美学

ケミカル・ブラザーズ『フリー・ユアセルフ』
発売中
SINGLE
ケミカル・ブラザーズ フリー・ユアセルフ

2年前に発表された“C-h-e-m-i-c-a-l”と比べても遥かにダイナミックかつアンセミックに仕上げられたケミカル・ブラザーズの新曲が届いた。天井無しのアッパーさとサイケデリアとが同居する、元来のケムズの強みが2018年の音色、プロダクションで磨き直された必殺の1曲である。と言うのは簡単だが、ここまでの道のりは決して平易なものではなかった。最初の3枚のアルバムで革新性と普遍性を共に獲得し時代の頂上に立った彼らは、その後アルバム3枚、およそ11年のもの間、いくつかのアンセムを生んだことを除いて、過去の自分達の黄金律を再生産することにしくじり続けてきた。そう、このケミカル・ブラザーズは、金太郎飴化することに一度は失敗しているのである。そこから、初心に立ち返り、誰もに愛されるポップ・アクトであることより明け方のフロアを沸騰させるダンス・アクトであることに重きを置いたことで起死回生の大復活を果たした『時空の彼方へ』を上梓したのが2010年。それから『時空の彼方へ』の方向性を維持・深化させた2015年の『ボーン・イン・ザ・エコーズ』までというのが、乱暴に振り返ったケムズの歴史である。それゆえ、この新曲は感慨深いのだ。これまで何度となく自分達の音楽家としての立ち位置や役割を確認し、そのただならぬ重圧に苦心してきた2人が、それでももう一度「でも、やっぱり俺達はこれだよな」と決した気高き覚悟が宿っているのである。1分過ぎのブレイクの脳の血管がブチ切れそうになる気持ち良さ。螺旋状に天に昇りつめながら別世界へと運ばれるような上モノの響き。何もかもがあの頃のままで、何もかもが今である。こんな腹を括った新曲を聴いてしまっては、来るアルバム以上にライブが観たくなってしまって仕方が無い。(長瀬昇)



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ケミカル・ブラザーズ『フリー・ユアセルフ』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

ケミカル・ブラザーズ フリー・ユアセルフ - 『rockin'on』2018年12月号『rockin'on』2018年12月号
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