「ロック・バンド」、U2の凄さ

U2『ノー・ライン・オン・ザ・ホライゾン』
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ALBUM
U2 ノー・ライン・オン・ザ・ホライゾン
この数ヶ月間、厳密に言えばオバマの就任式を皮切りに各国主要ミュージック・アワードの授賞式に至るまで、U2の姿を観なかった日はない。合衆国の大統領の晴れ舞台や昨年の表現物を精査するアワードは、言うまでもなく北アイルランド人で昨年何もリリースしていないU2とは無関係のイべントで、普通の人が素直な感想として抱くのは恐らく「一体U2は何者(様)なのか」という突っ込みだろう。しかし本作を聴きさえすれば、そんな彼らのステイタスに纏わる揶揄も擁護も本当にどうでもいいことに思えるだろう。U2とは、ロック・バンドである。本作は、U2がただひたすらにロック・バンドたろうとした傑作である。

抽象の極みのアートワークも素晴らしいが、それが象徴するのは無記名性ではなくリセットである。リセットと言っても原点回帰ではなく、過去も未来もない真空状態の今である。過去幾度も恣意的に方向性を変化させてきたU2だが、これほどドラスティックな変化は未だかつて類を見ない。あの、いつなんどきも暑苦しかったU2の「歌」が消えている様に一瞬焦るほどだ。その代わり、ここには押し付けがましい暑さとは全く別種の、原初のパッションが熱く滾っている。4人のプレイヤーの意思が一歩も譲らず主張し合っている。モロッコ・レコーディングの影響を多分に感じさせる中東の旋律も、ブルースも、エレクトリックも、ゴスペルも、そしてロックンロールも、U2に遠慮することなく爆発を繰り返していく。何様U2より偉いもの、それはロックだ。(粉川しの)
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