ザ・ローリング・ストーンズの言わずと知れた名作の50周年記念リマスタリング盤が本作。今回は60年代末から数々の名作レコーディング現場にも多数関わり、その後、リマスタリングの名手として知られるようになったボブ・ラドウィックのリマスタリングによるものだ。アナログ盤の深さや質感を極力再現しつつも、さらに輪郭が明快な音像を提供するものになっていて、間違いなくデジタル音源としての『ベガーズ・バンケット』では最高の音質を誇っている。
68年という年がロックにとって時代の大きな分かれ道となってさまざまな傑作を輩出した中でも、ストーンズのこのアルバムは傑出した作品だし、バンドの歴史の中でも大きな転換点となったものだ。それはこのアルバムに先んじてリリースされたシングル“ジャンピン・ジャック・フラッシュ”でキース・リチャーズが開放弦奏法を開眼させ、ダイナミックなリフ演奏をバンドとして獲得したからで、ストーンズの歴史と活動はこの“ジャンピン・ジャック・フラッシュ”と『ベガーズ・バンケット』以降とその前という区切りで明確に分けられるくらいだ。したがって、基本的に今のストーンズというのもこの『ベガーズ・バンケット』を出発点としていると言ってもよいほどに、このアルバムでのバンド体制の立て直しは本質的なものだった。
シングル“ジャンピン・ジャック・フラッシュ”が大成功した勢いのままアルバムが制作されながらも、“悪魔を憐れむ歌”などはアレンジとリズムについて徹底的で地道な試行錯誤の果てにようやく形となった名曲で、その結果、永遠に褪せることのない輝きを獲得することになった。さらにブルースやカントリー・ブルースを軸にした名曲の数々を誇るが“ジグソー・パズル”、“ストリート・ファイティング・マン”、“悪魔を憐れむ歌”などは68年に世界的に吹き荒れた反体制運動という時代に異議を唱える気分を歌詞としてリアルに反映した数少ない画期的な作品群となり、ストーンズの反逆的なイメージを確固たるものにした。
アルバムを通して聴いて特徴的なのは、バンド・アンサンブルがどこまでも現在のストーンズのサウンドと地続きなのに対して、67年以前のストーンズとはどこか異質な感じがあるところだ。それはバンド全体が決定的なグルーヴを獲得したからで、言うまでもなくそのきっかけがキースの覚醒だった。その一方でブライアン・ジョーンズが実質的に参加した最後の作品でもあり、それもまた時代の転換点を示している。(高見展)
『ベガーズ・バンケット (50周年記念エディション/ 7インチ紙ジャケット仕様)』の詳細はUNIVERSAL MUSICの公式サイトよりご確認ください。
ザ・ローリング・ストーンズ『ベガーズ・バンケット (50周年記念エディション/ 7インチ紙ジャケット仕様)』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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