歌への回帰から始まる未来

H.E.R.『H.E.R.』
発売中
ALBUM
H.E.R. H.E.R.

10年代を通してポップ・シーンを牽引してきたR&Bだが、また風向きが変わってきたようだ。象徴的なのは“ブード・アップ”が大ヒットしたエラ・メイの存在だが、要は「オルタナティブR&B」が推し進めたトラックの冒険と洗練はもはや前提として、よりオーセンティックに「歌」にフォーカスするスターが現れ始めている。

そのエラ・メイのアルバムにも参加していたH.E.R.(ハー)ことギャビー・ウィルソン。5歳で作詞作曲を始め、14歳でRCAとサインしたというとんでもない経歴の持ち主だが、これまでリリースしたEPをまとめた本作でグラミーの最優秀R&Bアルバム部門まで受賞してしまった。現在21歳。未来を嘱望された新星である。

つまり、何もかもが「本物」なのだ。ほぼすべての楽曲を彼女自身が手がけ、すべての曲で見事に情感豊かな歌を披露している。マライア・キャリージョン・レジェンドを手がけたDJキャンパーがプロデュースに加わっている事実からも彼女への期待の高さが窺えるし、たしかにトラックのアレンジはアンビエントの音響や声の細やかな加工を交えた今様のものになっている。だが、すでに「アリシア・キーズの再来」と評されていることからもわかるように、トラックの時代性に左右されない強度が彼女の声とメロディと歌唱にはある。とりわけビートの隙間を活かした空間把握能力はにわかに新人とは信じがたいもので、わかりやすく歌い上げることなく上質で柔らかなグルーヴとメロウネスを生み出している。ダニエル・シーザーとのデュエット曲の繊細な声の重なりもまた絶品だ。サウンドやアレンジを変えても彼女の歌が揺らぐことはけっしてないだろうから、これからどんな方向にだって行けるだろう。 (木津毅)



詳細はSony Music Entertainment (Japan)の公式サイトよりご確認ください。

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』4月号に掲載中です。
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H.E.R. H.E.R. - 『rockin'on』2019年4月号『rockin'on』2019年4月号
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