異常に盛り上がってくるこの内容に間違いはない

ザ・ローリング・ストーンズ『HONK[3CDデラックス]』
発売中
ALBUM

ザ・ローリング・ストーンズの最新コンピレーションとしてリリースされるのが今回の『HONK』だ。もうすでに無数のコンピレーションがリリースされてきているストーンズだが、今回の特徴はなにかというと、71年にザ・ローリング・ストーンズ・レコードを設立し、第1弾アルバム『スティッキー・フィンガーズ』をリリースして以降の楽曲のみを収録しているということだ。つまり、69年の『レット・イット・ブリード』から64年の『ザ・ローリング・ストーンズ』までに遡るデッカ・レコードでのレコーディングはすべて排除されている。しかし、それでは90年代までのストーンズのコンピ盤に逆戻りしたのと同じではないかと疑問に思う人も多いかと思う。でも、本当にそういうことなのだ。もうこれからはそれでいいというのが今回のコンピの試みなのだ。

そもそもストーンズのデッカ・レコードとの契約時の音源については、60年代後半に彼らのマネジメントを引き受けたアラン・クラインが手続きの際に強欲かつ狡猾に音源使用権を掠め取り、彼が設立していた制作会社、ABKCOに帰属させたため、レコード・デビューから『レット・イット・ブリード』までの音源は自由に使用できないものになってしまったという経緯がある。デッカとの契約が期限切れになって以降、ストーンズは自身のレーベル、ザ・ローリング・ストーンズ・レコードを設立し、音源も自身で管理するようになったため、彼らの音源については69年以前とそれ以降とではずっと扱いが違うということになってしまったのだ。

その後、活動40周年記念を迎えた02年にストーンズはコンピ盤『フォーティー・リックス』をリリースするにあたり、この契約環境の違いを乗り越えて、デッカ時代とそれ以降の時代の楽曲を同時に収録するという初めての試みを実現させることになった。活動50周年を迎えた12年にはやはり同じ趣旨でコンピ盤『GRRR!』をリリースした。しかし、ここにきてコンピ盤でのABKCO(デッカ)との協力体制を放棄したのはどうしてなのか。

まずひとつには、デッカ時代とそれ以降の曲目のバランスを常に取らなければならず、それが面倒になったということもあるだろう。単純な事実としてデッカ時代は5年だが、ザ・ローリング・ストーンズ・レコード時代は48年あるのにコンピでは常に半々で構成されてきたからだ。さらにストーンズは近年デジタル音源のリマスタリングやグレードアップを積極的に進めてきたが、その試みがABKCOとはまるで足並みが揃っていないということもあるはずで、もうABKCO音源と71年以降の音源を一緒くたにするメリットがなにもみつからなくなってきたということもあるのかもしれない。

たとえば、68年の『ベガーズ・バンケット』や、69 年の『レット・イット・ブリード』などは、デッカ時代のみならず、全ロック史に燦然と輝く傑作といえる内容を誇っている。しかし、それらはコンピ盤で収録楽曲を聴くよりも、それぞれ個別のアルバムとして聴けばいいだけの話なのだ。むしろデッカ時代のレコーディングで特に浮かび上がってくるのは、ストーンズが熱狂的なまでにブルースやR&Bを信奉するバンドだったということで、そんな一面は16年にリリースしたブルース・カバー・アルバム『ブルー&ロンサム』でも充分に体現されている。だから『スティッキー・フィンガーズ』から『ブルー&ロンサム』までの音源を収録すれば事足りるというのが今回のコンピ案の趣旨なのだ。ストーンズの全盛期は70年以降にあるというのは厳然とした事実だし、その時代だけで36曲詰め込んだ今回のコンピレーションは申し分なく圧倒的なクオリティーを誇るので、かけっぱなしで聴いているとやたらと気分が盛り上がってくる。

さらにデラックス・エディションだと最近のライブ音源もボーナスとして収録されていて、これもまた嬉しい。こちらには“一人ぼっちの世界”、“シーズ・ア・レインボー”、“夜をぶっとばせ!”、“アンダー・マイ・サム”などデッカ時代のヒット・シングルもライブ・バージョンとして収録されていて、特に古典的なR&B曲としての“アンダー・マイ・サム”は、その名曲ぶりにあらためて脱帽させられるバージョンのパフォーマンスとなっている。もちろん、これはカバーではなくてストーンズのオリジナルだ。さらに“ビースト・オブ・バーデン”などの名曲へのエド・シーランらの客演など、コンテンポラリーなアトラクションにも事欠かないライブ音源になっている。でも、一番嬉しがっているのは“ビッチ”で共演を果たしてみせたデイヴ・グロール本人かもしれない。 (高見展)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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『rockin'on』2019年6月号