彼のリアルを世界のリアルに

ロイル・カーナー『ノット・ウェイヴィング、バット・ドラウニング』
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ALBUM
ロイル・カーナー ノット・ウェイヴィング、バット・ドラウニング

2017年のデビュー・アルバム『イエスタデイズ・ゴーン』1枚で一気に英国ヒップホップ・シーンの最前列を確保したMCの待望の新作。前作は尊敬する母や祖父、失踪した実父、そして継父といった彼を取り巻く状況について、そしてその中で自身が覚えた悲しみや慈愛について語られたアルバムだった。特に秀逸だったのが、できる限り言葉を脚色しないように、必要以上に「物語」として仕上げず、メッセージを率直にちりばめた「彼の語り」と言うべき形式が採られていたこと。金と女とドラッグとにまみれた自分というキャラクターを作り込むギャングスタと、人種や世代といった大きな対象を背負うために強い物語を構築するヒロイックなMC、その両者のミッシング・リンクとして現れたのがこのロイル・カーナーだったように思うのだ。その在り方は、この2作目においても変わっていない。どこまでも醒めた(熱しもせず冷たくもない)トラックと声で彼は彼の言うべきことを言い続けている。前作と昨年の来日公演(およびそれに付随した取材)により、彼を「ポジティブで義に厚い真面目な男」とし、そして彼の音楽をそうしたパーソナリティの映し鏡とする、つまらないレッテル貼りを幾度か目にしたことがある。何の流行にも頼らずエバーグリーンな輝きを湛えた本作の音楽的強度は、そうした風評を軽く吹き飛ばして余りあるものである。サンファやジョルジャ・スミスといった聴き手の感情を激しく揺らすタイプのシンガーを招いた楽曲を聴くとなおのこと、そこに張り合わず、迎合もせず、愚直に繰り広げられる彼のラップの特異さに耳を奪われる。ここにあるのは彼が創った言葉、そして音楽、それだけであり、だからこそ、使い古された「リアル」という言葉を今一度用いてみたくなるのである。 (長瀬昇)



詳細はHostessの公式サイトよりご確認ください。

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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ロイル・カーナー ノット・ウェイヴィング、バット・ドラウニング - 『rockin'on』2019年6月号『rockin'on』2019年6月号
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