プリンス蔵出し企画、第2弾:元はこれでした!編

プリンス『オリジナルズ』
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ALBUM
プリンス オリジナルズ

多くのファンに絶賛された昨年の『ピアノ・アンド・ア・マイクロフォン 1983』に続き、今年もまた、プリンスの未発表音源を集めた企画アルバムがリリースされる運びとなった。今回の『オリジナルズ』は、プリンスがもっとも精力的に活動していた1980年代に、他のアーティストのために書き下ろした楽曲の「オリジナル・バージョン」を集めたもの。全15曲のうち、昨年の4月に先行で配信リリースされた“ナッシング・コンペアズ・トゥ・ユー(愛の哀しみ)”を除けば、いずれも完全未発表だった貴重な音源だ。生前のプリンスは自分の音楽の「裏側」を見せることをとことん嫌っていただけに、彼がまだ生きていたら、いまだに実現してない企画かもしれない――その意味では多少フクザツな思いもあるのだけど、一方で、プリンスの死からすでに3年が過ぎた今、未発表曲の掘り起し作業がここまで進んできたという事実は、素直に嬉しいことでもある。いずれにしろ、ファンにとっては昨年の『ピアノ・アンド〜』に続いて「ちょっとドキドキ」な必聴盤だろう。

今回収録された15曲は、レコーディングの時期的に言うと、1曲の例外(マルティカが91年に発表した“愛がすべて”)を除いて、すべて81年〜85年の間に録音されている。ご存じのとおり、プリンスは、この時期にソロ・アーティストとして『1999』と『パープル・レイン』と『アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ』という名盤アルバムを立て続けに作っていた。それと並行して、これだけの「外仕事」をこなしていたわけだから、その圧倒的な仕事量(そして驚異的な速度!)には、改めて驚嘆するしかない。凡人の発想なら、自分のアルバム制作に集中したい時期に、他人用の曲作りなんかしてる場合じゃないだろと思うのだけど、もちろんプリンスはそんなケチな凡人ではなかった。自分用だろうが、他人用だろうが、新しい音楽のインスピレーションが湧いたら、何はともあれ、スタジオに飛び込んで、納得いくまで仕上げないと気が済まない人だったのだ。

この15曲の振れ幅は、音楽的にはかなりバラエティに富んだものになっていて、80年代プリンスの「雑食的」なグルメぶりを改めて確認できるのが楽しい。カントリー界の大御所、ケニー・ロジャースが86年に発表した“ユアー・マイ・ラヴ”なんて、場末のバーでラウンジ・シンガーが歌ってそうなバラードで、「ブラック・ミュージック果汁0%」の世界が逆に面白い。シーラ・Eの“ホリー・ロック”(85年発表)は、彼女が出演もしていたデフ・ジャムのヒップホップ映画の中で使われた曲で、だからプリンスにしては超珍しく、思いっきりBボーイ風である。かと思うと、ヴァニティ・6の“メイク・アップ”(82年)なんて、今の時代の耳で聴くとレトロなエレクトロ感がたまらない珠玉のテクノ・ポップ……と、まとめて聴いていくと、プリンスにとって、他人への楽曲提供とは、大胆なアイディアを自由に試せる「実験場」的な役割も大きかったのかもしれない……という気がしてくる。“SEX・シューター”(84年、アポロニア6)や“ジャングル・ラヴ”(84年、ザ・タイム)みたいなお約束の色物ソングもあれば、“寂しいジゴロ”(82年、ザ・タイム)みたいな誠実なラブ・ソングもある。歌詞の方も、女性シンガーに贈った曲ではちゃんと「女性目線」になりきってるのが微笑ましい(バングルスが歌った“マニック・マンデイ[86年]”なんて、完全に「乙女」のOLソングだ)。プリンスの音楽世界の凄さって、彼の「多重人格」的なメンタリティから生まれる部分が大きかったと思うのだけど、今回のアルバムは、そういう意味では「15重人格」なプリンスと出会える一枚でもある。

ラストの“ナッシング・コンペアズ~”は、90年のシネイド・オコナーの伝説的なカバーが有名だけど、もともとは85年にザ・ファミリーが発表した曲で、ここにはその元バージョンが収録されている。シネイドの歌唱の「神々しさ」と比べると、こっちのバージョンは男女デュエットで、よりベタなラブ・ソングとして意図されていた点も興味深い。実際問題、ザ・ファミリーの女性ボーカルだったスザンナ・メルヴォワンはちょうどこの当時、プリンスとプライベートで恋人関係だった。ついでに言うと、プリンスは一時期、シーラ・Eとも、ヴァニティとも付き合っていた(ただ、なぜかアポロニアとだけはプラトニックな関係だったんだけど)――そういった提供アーティストとの「関係性」も踏まえた上で、できれば、すべての曲の完成バージョンと比較しながら聴いてもらうと、よりディープにハマるアルバムだと思う。2019年、プリンスの旅はまだまだ続くのだ。 (内瀬戸久司)



詳細はWarner Music Japanの公式サイトよりご確認ください。

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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プリンス オリジナルズ - 『rockin'on』2019年7月号『rockin'on』2019年7月号
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