ベタだからこその良さ

DJ キャレド『ファーザー・オブ・アサド』
発売中
ALBUM
DJ キャレド ファーザー・オブ・アサド

全米アルバム・チャート初登場2位。1位はタイラー・ザ・クリエイターだった。当然1位をとれるものと思っていたDJキャレドは怒り心頭、ビルボードの集計方法にクレームをつけ、同誌を訴訟する動きを見せている、と一部で報じられている。

ことの真偽はわからないが、1位をとれなかったことにキャレドがはらわたの煮えくりかえる想いをしていることは確かなようだ。もし本当にキャレドが訴訟まで考えているのだとしたら、少々、いやかなりカッコ悪い。制作費も宣伝費も膨大な予算を割いたであろう一大プロジェクトが売れないと困るのは当然だが、チャート1位じゃなくたって目標の売れ行きが達成されればいいと思うし、1位をとれなかったのがそんなに重大事か……と、パンクあがりの筆者などは思ってしまう。

だが、ワルを気取りながらも、ビルボードのチャートという既存の権威や価値観を自分の拠り所、あるいは勲章にする、言ってみれば成り上がりのヤンキー的な感性はヒップホップのひとつの特徴だと言っていいし、それは、前作同様、ビヨンセジェイ・Zカーディ・Bジャスティン・ビーバーポスト・マローンリル・ウェインシザ、トラヴィス・スコット、チャンス・ザ・ラッパーなど、そこまでやらんでも、というなりふり構わぬ超豪華ゲストにも表れている。「どうだオレはこんなにたくさん友だちがいるんだぜ」と自慢したい空気が濃厚というか。故ニプシー・ハッスルの生前最後の録音曲も収録するなど話題性も十分だ。

サウンド・プロダクションは見事の一言である。これだけ多彩かつ大量のゲストを起用しながらも、決して騒がしいだけのパーティー・アルバムになっておらず、一本筋の通った、むしろ落ち着いた印象さえ与えるのは、アルバムの構成や楽曲の仕上げ、各楽器の鳴りや響き、アレンジの仕上げや音の抜き差しに至るまで緻密に考えられているから。良い曲が多いのは必ずしも彼だけの力ではないが、それをコントロールするのがプロデューサーの仕事。そういう意味では本作はまさにプロ中のプロ、トップ・プロデューサーの仕事である。全編の落ち着きとまとまりの良さはアルバムのテーマにも関係していて、自分の息子にインスパイアされて『Father of Asahd=アサドの息子』というベタなタイトルのアルバムを作るような親バカぶりに本作のサウンドは相応しい。

つまりは金にあかせて豪華ゲストを掻き集めただけのこけおどし的な作品ではない。内容は十分に胸を張れるものになっているんだから、タイミングに左右されるチャートの結果なんてどうでもいいじゃん……と、私は改めて思うのだった。 (小野島大)



各視聴リンクはこちら

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

DJ キャレド ファーザー・オブ・アサド - 『rockin'on』 2019年8月号『rockin'on』 2019年8月号
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする