宅録ガールの新たな一歩

クレイロ『イミュニティ』
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ALBUM
クレイロ イミュニティ

宅録アーティストが大物プロデューサーと組んでベッドルームから飛び出す――という筋書きは、マイナスな結果に行き着くこともある。20歳にして、過去4年間にあの“Pretty Girl”ほか多数の曲を発信してきたアメリカ人シンガー・ソングライター、クレイロことクレア・コットリルの場合、ちょうど過渡的な時期にあったせいか、賭けは吉と出た。共作・共同プロデュースでロスタム・バトマングリと組み、ほぼふたりだけで完成させたオール新曲の初のアルバムで絶好の再スタートを切る。

まず、アレンジにヒネリが加わり、音質が飛躍的に向上して、ローファイさを払拭したことは言うまでもないだろう。ふたりは、選び抜いた必要最低限のドラムやギターやシンセの音を、タイミングをずらしたり不意を突いたり、ジャストな気持ち良さをはぐらかしながら配置。メロディとボーカルは前面に押し出され、ロスタムはクレアから自信を引き出すという重要な役割も果たしたらしい。何しろ、長い間抱えていた秘密をさらけ出したかのような言葉は鮮烈で、冒頭からいきなり、生きることを諦めかけた時期を回想する。

そう、本作は彼女が10代の自分を振り返って、癒えた傷と癒えていない傷を確認する、成長の記録。「初めて孤独を感じたのは15歳の時〜ひたすら『ラヴレス』を聴いていた」と、ティーンはいつの時代も変わらないってことを教えてくれる。また、先頃正式にカム・アウトしたクレアはセクシュアリティを巡る複雑な想いと向き合っており、こにきて明確に女性に宛てたラブ・ソングを綴っていることも、特筆すべき点だ。抑制の効いた歌声に激しいエモーションを潜め、タイトル通りに免疫(=immunity)を身につけた彼女は、ベッドルームの外で待っていた自由を謳歌している。 (新谷洋子)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。
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クレイロ イミュニティ - 『rockin'on』2019年9月号『rockin'on』2019年9月号
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