バージョン2.0、本格開始

スリーター・キニー『センター・ウォント・ホールド』
発売中
ALBUM
スリーター・キニー センター・ウォント・ホールド

再結成劇は今やロック産業の定番だが、スリーター・キニーほど有意義な再始動はなかった。政治的なメッセージとフェミニズム・パンクのエトスを体現し着実な成長を通じてロック・バンドの概念を変えた――4年前の復帰作『ノー・シティーズ・トゥ・ラヴ』は、先駆者に時代が追いついたことで彼女たちがノスタルジアどころか今こそもっともバイタルかつ文化的に最前線な存在であるのを高らかに告げる素晴らしいアルバムだった。しかし古株ファンを泣かせ若いファンを熱狂させる喜びと達成に安住することなく、彼女たちは本作で大胆に前進する道を選んでいる。プロデュース業はこれが初になるセイント・ヴィンセントはエレクトロ~インダストリアル系シンセ/ビートを筆頭とする多彩な質感とサウンドの仕掛けがせめぎあう音空間を生んだ。2分を超えないとSKの看板=アイス・ピックなギター・リフが登場しない①、フォーキィな⑤、SV味全開⑥、シンセ・ポップ⑦などスタイルも多様。ストイックさの安全圏から踏み出し様々な話法・語彙に手を伸ばしている。

本作リリース直前に残念ながら屋台骨=ジャネット(Dr)が脱退したことで波紋が生まれたように、愛したバンドが解散時に冷凍保存され、昔のまま解凍され続くことを望むのは人間の性だ。だが音楽的にポスト・パンクやNWを踏襲した前作が彼女らの生来の筋肉を鍛え直した1枚とすれば、本作は未使用/未知の筋肉を使い始めた1枚。そのぶん不発な面もあるし、内面を赤裸々に綴ったアルバムでありながらその核になる=聴き手が共感し拠り所にできる曲(⑩⑪)が少なめなのは惜しいが、SKが異なるアプローチに果敢に挑戦した点、何より4人の女性が書き、プロデュースし、演奏したレアな必聴作品が生まれたのは快哉を叫ぶ。 (坂本麻里子)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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スリーター・キニー センター・ウォント・ホールド - 『rockin'on』2019年10月号『rockin'on』2019年10月号
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