最強バンド召喚

ニール・ヤング・ウィズ・クレイジー・ホース『コロラド』
発売中
ALBUM

さまざまな人たちとバンド・セットを組んできたニール・ヤングだが、ことクレイジー・ホースを召喚するときには特別な決意がある。

真のソロ・スタートとなったセカンド・アルバムに始まり70年代を代表する『ZUMA』、パンクへの共感、そしてニルヴァーナ、カートにまで影を落とす『ラスト・ネヴァー・スリープス』、ニール史上最高の爆音が炸裂した『ウェルド〜ライヴ・イン・ザ・フリー・ワールド』、もっともコンセプチュアルだった、03年の『グリーンデイル』のときは、現時点で最後の来日公演も実現した。そして、前回となる12年はカバー集の『アメリカーナ』と『サイケデリック・ピル』でアメリカの歴史から感性の深部と向かいあってみせた。

こうして振り返ると、まさにニール・ヤング史の巨大な節目となっているわけだが、久しぶりにクレイジー・ホースとライブを行ったとのニュースが流れたのが昨年春のこと。さらにスタジオ・ライブでレコーディングもとの噂が流れ、じつにスムーズに進みリリースとなった。

クレイジー・ホースとは14年にやったツアーが最後で、ギターのフランク・サンペドロが体調問題からリタイア状態となったり、ウィリー・ネルソンの子供たちを中心としたプロミス・オブ・ザ・リアルの著しい成長もあり、基本的には彼らとのコラボが進められていた(現在もツアー中)。息子のような年齢の若者たちとのセッションは刺激的だろうが、しかし当たり前の話だが世代の違いから、いろいろな問題の受け止め方や意見が異なるのも当然で、そこらを埋める同志的な人たち、古くはベン・キース、最近だとリック・ローザス、そしてこの6月には、まさにかけがえのない存在であった長年のマネージャー、エリオット・ロバーツらが、次々と亡くなる場面に出会い、時代や言葉を共有できる仲間たちとやるべきことはやっておこうとのモードに入ったに違いない。

メンバーの欠けているクレイジー・ホースの穴を埋めることになったのは、いまやブルース・スプリングスティーンの右腕的なニルス・ロフグレンで、ニールとの仲は19歳で参加した70年の『アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ』に始まり、名作『今宵その夜』や『トランス』などでも好プレイでサポートしていた。そんなニルスを加えた新生クレイジー・ホースと昨年春にカリフォルニアで計5回のライブを行い、そこで確信を得て曲作りへと進み、今年春にはコロラドのスタジオでレコーディングとなったわけだ。

基本的にはスタジオ・ライブ、目の合図だけで意図がわかる旧友とのセッションならではの空気感が濃厚だが、ただ、深い信頼はあっても、緊張感が失われることがないのが最大のポイントで、旅立ちを歌う1曲目の“シンク・オブ・ミー”から、あの無骨なリズム隊が奔放なニールのイマジネイションを広げていく。

旧友との再会のときを慈しむ間もなく突入するのがアルバム中もっともヘヴィで、約13分半(!)にわたってニールの歌心が爆発する“シー・ショウド・ミー・ラヴ”で、シンプルな自伝的な歌詞と拮抗してかき鳴らされるギターの生み出すカタルシスは、この時代のものとは思えないし(笑)、唖然とする人たちの様子も思い浮かぶが、これこそニールらの求めるリアルで、ぱっと聴いて最高、となるものじゃない。しかし、手ごたえを自らの手にしたときの重さがもたらす快感は特別な体験となる。

ラップ調のボーカルで「俺の気を狂わせる刺激をくれ」と訴える“ヘルプ・ミー・ルーズ・マイ・マインド”、かと思えば動物たちへの言葉に託した“グリーン・イズ・ブルー”では地球への思いを丁寧に描いたりと振幅は激しいが、それこそニール・ワールドで、クレイジー・ホースと一体化してこそのパワーが噴き出してくる。それはアルバム中もっともロマンチックなナンバーであってさえも強く感じる。それは”天の川”を意味する“ミルキー・ウェイ”で、キラ星のごとくあるニールの名曲群に連なるが、ダリル・ハンナに捧げられたであろう曲の後半、ニール節全開のギター・ソロや長〜いアウトロの乗っけられた複雑な思いは天空に広がっていくかのようだ。

また、いち早く公開された“レインボウ・オブ・カラーズ”は、《アメリカにはいろいろなカラーがあり白く塗りつぶすことなんてできないんだ》という現アメリカ指導者へのストレートなメッセージで、今のニールにとって歌わねばならないテーマはアルバム全体の中での収まりもよく、アルバムを締めくくる“アイ・ドゥー”への流れも完璧だ。

現在のニールらしく、それでいてクレイジー・ホースとでなければ生まれないグルーヴと慈愛に満ちた、長く味わえるアルバムだ。 (大鷹俊一)



詳細はWarner Music Japanの公式サイトよりご確認ください。

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。
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『rockin'on』2019年11月号