驚異的な普遍性と懐の深さを開陳したセカンド

ストームジー『ヘヴィー・イズ・ザ・ヘッド』
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ALBUM
ストームジー ヘヴィー・イズ・ザ・ヘッド

2年前のデビュー・アルバムが絶賛されたストームジー。その作品はグライムに徹したアルバムだっただけでなく、グライム・アーティストとして史上初めてイギリスのアルバム・チャート1位を制し、本人にとってはもちろん、“グライム”というジャンルにとっても画期的な事件となったに違いない。つまり、最高の評価とセールス的な実績も手中にし、次回作ではあまりアプローチを変えない方が無難だったはずだ。グライムというジャンルを背負っていると自負していれば、それはなおさらのことだ。しかし、今回の新作『ヘヴィー・イズ・ザ・ヘッド』は、グライムとしての身上はきちんと打ち出しながらも、どこまでもメインストリームなヒップホップ、R&Bやソウルも取り込む内容になっていて、その果敢なアプローチが素晴らしいのだ。売りたかっただけなんじゃないのという見方もあるかもしれないが、しかし、ここまでストイックに作り込んだアルバムについて「売らんかな」という指摘はあてはまらないはずだ。これは自分の背景であるグライムをより知ってもらいたくて、広く聴かれる作品を作りたいという、どこまでも攻撃的なアプローチなのだ。

冒頭はそんな今のストームジーのメジャー感溢れる気概をぶちかましていく展開。“ビッグ・マイケル”と“オーダシティ”はどこまでも複雑で緻密なグライムならではのビートで、自分の成功へのやっかみや、なにかというと噛みついてくる若手を蹴散らし、自身のスキルと度量を叩きつけていく俺様節となっている。その一方、“クラウン”は切ない調べのバラードで、自分はいつも答えを探しているという内容を見事に歌い上げていき、いきなりリスナーを圧倒するパフォーマンスが素晴らしい。なお、アルバム・タイトルの『ヘヴィー・イズ・ザ・ヘッド』はこの“クラウン”の歌詞から引いたもので、第一人者として王冠を被っている自分の頭には大きな重みがかかっていると、その自負をみせつけるものだ。ただ、この自負をここまで求道的な歌詞と切ないメロディに乗せられるところがやはりただものではない。

その一方で“レイチェルズ・リトル・ブラザー”や“ハンサム”などではグルーヴをつけたど真ん中のトラップでストームジー特有の節回しを聴かせてくるという力業で、この序盤のたたみかけ方がさすが今一番勢いに乗っているラッパーというべき圧倒的なパワーを感じさせる内容となっている。

しかし、さらにすごいのがその後の歌もので“ドゥ・ベター”ではゆったりとしたグルーヴによりよく生きたいという思いを歌い上げつつ、その一方でよりよく生きられなかった記憶の苦々しさについてはラップでつぶさに吐き出していくという、どこまでも聴きやすく、なおかつ心を揺さぶられるパフォーマンスをたたみかけていく。さらにポール・エプワースと共作している“ドント・フォーゲット・トゥ・ブリーズ”では、夢を追い続ける相手への気遣いをしっとりと歌い上げてみせる。こうしたメインストリーム感のある楽曲の完成度もあまりにも見事で、はっきり言って非の打ちどころのない展開となっているのだ。

というわけでどんどん順繰りに紹介してしまうことになるのだが、これに続く“ワン・セカンド”ではH.E.R.を共演に迎え、それにふさわしいエッジも加えたビートに仕立てあげつつも、自分の現状から受けるプレッシャーやメディアとのすれ違いが生む軋轢などをH.E.R.の歌とストームジーのラップが織りなすパフォーマンスで綴るもので、これもまたあまりにも見事。

しかし、一番強力なトラックはこれに続く“ポップ・ボーイ”だ。グライム・アーティストとしてのストームジーの資質のすべてが炸裂する内容となっていて、これは本当にしびれる。ここ数年の自分の成功について、ポップに走ったからだろ、とこきおろす向きに対して、「そうではなくて俺はいつでも弾けている(ポップ)からおまえらには無理なんだよ」とうそぶくこのパフォーマンスとサウンドは本アルバムのピークとなる真骨頂である。ほかにもエド・シーランと共演する“オウン・イット”など聴きどころは無尽蔵にあるが、いずれにしてもストームジーの魅力は、どこかすごく凝縮された普遍性を感じるところにある。それはグライム・アーティストの多くがカリブ系の背景を持っているのに対して、ガーナ系移民で音楽的な家庭環境ではなかったという彼の生い立ちが関係しているのかもしれない。それだけストームジーには一般性へと表現を広げていく衝動が強かったのではないかと思う。いずれにしても、それが普遍性として見事に形になったのがこの作品なのだ。 (高見展)



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ストームジー ヘヴィー・イズ・ザ・ヘッド - 『rockin'on』2020年2月号『rockin'on』2020年2月号
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