人びとが待っていた音と言葉

ジェイ・エレクトロニカ『ア・リトゥン・テスティモニー』
発売中
ALBUM
ジェイ・エレクトロニカ ア・リトゥン・テスティモニー

いまになってこの、「永遠の新人」の「デビュー・アルバム」がリリースされるとは……驚いた人も少なくないだろう。その才能に惚れこみ、ジェイ・Zが契約を交わしたのがもう10年前。それから客演などで姿を見せることはあったものの、彼自身のアルバムはついぞ出ることはなかった。しかし(真偽はともかく)「40日で作った」という本作は、迫力と説得力に満ちた、待った甲斐のある一枚だ。

ラフなサンプリングのなかで、あくまでラップの凄みでグイグイ聴かせる硬派なスタイル。ニューオーリンズ出身ということで南部の音楽的ムードや南部にまつわるワードも散見できるが、それ以上にイスラム教にまつわる言葉に力がこもっているようで、エレクトロニカのブラック・ムスリムとしてのアイデンティティを強調している。何しろアルバムは、アメリカ黒人のイスラム組織であるネーション・オブ・イスラムの指導者ルイス・ファラカン師の言葉から始まるのだ。彼の主張はアメリカでも過激と言われることも多かったが、それはあまりにも過酷な差別と闘うためのものだった。いまだに黒人差別が根深いアメリカで、エレクトロニカはブラック・ムスリムの思想をいま一度掲げることで黒人の誇りを示す……もっとも虐げられた同胞に向けて。アルバムはときにファンキーに、ときにソウルフルに、ときにメロウに音楽を変えながら、しかしそのパワフルな勢いは失わない。言うべきことがある人間が、ダイレクトにそれを世に叩きつける……ヒップホップの根源的な力を感じさせるアルバムだ。エレクトロニカの、「人びと」にこそ語りかけるんだという意思がたぎっている。ザ・ドリームとトラヴィス・スコットも参加、ジェイ・Zはクレジットなしでほぼ全曲に出演している。 (木津毅)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。
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ジェイ・エレクトロニカ ア・リトゥン・テスティモニー - 『rockin'on』2020年5月号『rockin'on』2020年5月号
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