今作の1stシングル曲“ナインティーン・エイティ”でジョー・サトリアーニは、「70年代後半から80年代初期、彼はロック・ギターを救った」と語るエディ・ヴァン・ヘイレン使用のビンテージのフェイザー「MXR EVH」を使い、文字通り80年代のサウンドを目指したという。それは同時に、彼が初めて組んだバンド=スクエアーズで「よりクールでニュー・ウェーブ的なヴァイブ」へと自らを誘導していた80年当時の自分を、ロック・ギターのダイナミズムへと解き放とうとするトライアルであるかのように、切実かつエモーショナルな響きを伴って「今」に響く。
前作『ホワット・ハプンズ・ネクスト』から約2年ぶり&ソロ17枚目の今作。表題曲“シェイプシフティング”で聴かせる、70年代パワー・トリオ感を彷彿とさせるソリッド&ブルータルなギター・サウンドの奔流。オールディーズ感満載のポップなメロディを、ミディアム・テンポの爽快なハード・ロックとして燃え盛らせる“ビッグ・ディストーション”の迫力。ブルージーなバラードの果てに雄大なギターの地平を繰り広げる“ティア・ドロップス”の包容力……。チャド・スミス/グレン・ヒューズとの完全トリオ編成で作られた前作の「ロック・ギター・アイコン=ジョー・サトリアーニの真骨頂!」的な熱量とは趣を異にしているものの、多彩なジャンルとスタイルを自らのギター・プレイで渡り歩くような今作でのジョーの在り方は、あたかも彼自身がロックとギターの可能性そのものの生きた証であるかのような、アグレッシブなバイタリティに満ちている。スティーヴ・ヴァイやカーク・ハメットといった名プレイヤーの師匠にして永遠の探求者でもあるジョー・サトリアーニ、現在63歳。その不屈の挑戦精神を物語る重要な1枚だ。 (高橋智樹)
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