ディスコ2020

デュア・リパ『フューチャー・ノスタルジア』
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ALBUM
デュア・リパ フューチャー・ノスタルジア

全世界で大ヒットを記録したデビュー作から3年、デュア・リパ待望のセカンドとなる本作は、これぞ一分の隙もない完璧なポップ・アルバムだ。前作もウェルメイドな一作だったが、本作と前作とでは「完璧」のベクトルが全く異なる。前作はEDMやラテン・ポップ、トロピカル・ハウスといったトレンドにのっとり、凄腕プロデューサーたちがデュア・リパを最高の素材として腕をふるった一枚だったとしたら、本作は彼女自身が100%の主導権を握ったアルバムだったのではないだろうか。

デュア・リパが本作でやりたかったのは、彼女が大好きだったディスコ・ポップを極めること。実際本作の大半を占めているのは70年代のオリジナル・ディスコというよりも、そこから影響を受けた80年代~90年代、さらには00年代初頭のダンス・ポップへのオマージュだ。例えばINXSの“ニード・ユー・トゥナイト”をサンプリングした“ブレイク・マイ・ハート”はカイリー・ミノーグを彷彿させるユーロポップ(マイケル・ハッチェンスとカイリーの関係を思えばグッときます)な仕上がりだし、“ハルシネイト”には『レイ・オブ・ライト』期のマドンナのアンビエントなシンセワークへのリスペクトを感じる。ハスキーでパワフルなボーカルが活きた“フィジカル”はもろに80sで、ボニー・タイラーの“ヒーロー”を思い出したりも。“レヴィテイティング”のラップ調のパーカッシブなボイスはデボラ・ハリーか、はたまたスパイス・ガールズかという仕上がり。コンセプトが絞り込まれた分、前作よりもサウンド・バラエティは減少したが、その代わりに猪突猛進の勢いというか、迷いなくアッパーなビートを刻んでいくパワフルなアルバムに仕上がっている。ちなみにチェンバーなストリングスをフィーチャーしたラストの“ボーイズ・ウィル・ビー・ボーイズ”だけ少し異質だが、《少年はいつまでも少年でいられるけど、少女はいつか大人になるんだよね》と歌う同曲は、セクハラやジェンダー・バイアスに苦しむ現在の少女たちへのエンパワーメントを込めた歌でもある。

ベイパー・ウェーブやローファイ・ヒップホップの潮流にも象徴されるように、本作のタイトルにも掲げられた「フューチャー」と「ノスタルジア」が溶け合って生まれた「新しい懐かしさ」が、近年のポップスの緩やかな共通感覚になっていることはご存知の通り。それは本作にも存在する感覚だが、同時にここには過去と未来の狭間で漂うモラトリアムは一切ない。アルバム・ジャケットで示されるように、ハンドルを握るのはあくまで彼女自身なのだ。 (粉川しの)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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デュア・リパ フューチャー・ノスタルジア - 『rockin'on』2020年6月号『rockin'on』2020年6月号
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