時空を超えて取り戻された、ひとつ前の物語

グレイ・デイズ『アメンズ[初回限定デラックス盤]』
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ALBUM
グレイ・デイズ アメンズ[初回限定デラックス盤]

早いもので、この7月20日をもってチェスター・ベニントンが旅立ってから3年ということになる。このグレイ・デイズは、若き日の彼が生まれ故郷のアリゾナ州フェニックスで組んでいたバンドで、2017年には20年ぶりのアルバム制作を伴う再結成プランも持ち上がっていた。彼自身の死がそれを不可能にしてしまったわけだが、残された盟友たちは、90年代当時に録られていた彼の歌唱音源を軸としつつ、それを盛り立てるように演奏を重ねながらアルバム1枚分の楽曲を完成させた。それが、この作品というわけである。

要するに90年代に作られた楽曲が、当時の歌唱と今日なりの演奏や手法が合体する形でまとめられているわけだが、そこに強引な整合性を求めたかのような違和感はまるでない。ここに封じ込められているのは、いわばリンキン・パーク誕生前夜のチェスターの姿。こうして改めてそれに触れてみて痛感させられるのは、デリケートさと力強さの同居する彼ならではの歌声と、ボーカル・メロディの説得力には、当時からずば抜けたものがあったのだということだ。客観的にみれば、バンド・サウンドを基盤とする表現スタイルは今現在の音楽シーンにおいて最新のものとは言えないわけだが、この作品には古めかしさではなく、今日のロックが失いつつあるものが脈打っているようにさえ感じられる。

なかには10代の頃に書かれた歌詞なども含まれているだけに、未成熟な世代ならではの脆さや絶望の匂い、このバンドが結成された1993年当時ならではの露骨な〈グランジに触発されました感〉も見て取れるが、音楽的にはむしろ〈リンキン・パークからヒップホップ要素を抜いた状態〉と形容したほうがわかりやすいはずだし、実際、同バンドにコレを求めていた、というリスナーも少なくないのではないだろうか。

KOЯNやブッシュのメンバー、女性シンガーのLP(ローラ・ペルゴリッジ)らの客演に加え、チェスター自身の息子にあたるジェイミーが“ソウル・ソング”のバッキング・ボーカルとビデオ制作に携わっている事実、すでに公開されているチェスターの両親の発言なども交えられたドキュメンタリー映像などからも、どうしても聴く前に物語性を感じさせられ、身構えてしまわざるを得ないところのある作品でもあるが、聴けば聴くほどに、この灰色の日々にこそ彼の根源があることを実感させられる。本作の収録曲たちのなかにも、彼の歌声を愛し、それに救われてきた人たちが、これから大切にしていくべきものが確実に含まれているはずである。 (増田勇一)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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グレイ・デイズ アメンズ[初回限定デラックス盤] - 『rockin'on』2020年7月号『rockin'on』2020年7月号
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