ダンス・ポップ優等生

カイゴ『ゴールデン・アワー』
発売中
ALBUM
カイゴ ゴールデン・アワー

秋にはスーパーソニックへの出演も決まっているカイゴの2年半ぶり3作目。先行配信された5曲を含む全18曲60分は、さすがとしか言いようがない、水も漏らさぬ完成度の高さ。18曲中17曲が3分台のコンパクトな、だが短すぎず適度に小腹を満たしてくれるような、ポップの黄金律に忠実な歌ものばかりで、音質も曲構成も徹底してサブスクリプション配信に最適化されたような完璧な作品だ。この種のダンス・ポップのツボを決して外さずきっちり押さえたソツのなさがカイゴらしい。

とはいえここで鳴っているのはただのダンス・ポップだけではない。前作でも聴けたクラシック・ロックやオールドスクールなソウル、ゴスペルへのアプローチがひとつのアクセントになっている。なかでも耳を引くのは“ハイヤー・ラヴ”で、もちろんスティーヴ・ウインウッド1986年の全米No.1ヒットだが、ここではホイットニー・ヒューストンが1990年にカバーしたバージョンから、彼女のボーカル・トラックだけを抜き出してカイゴがリミックス(というかリワークに近い)したもの。洗練されたニュー・ジャック・スウィング風にアレンジされたホイットニー・バージョンに対して、よりソウルフルでゴスペル的であり、よりベーシックであって、むしろウィンウッドのオリジナルのスピリットを受け継いでいるのはカイゴのバージョンではないかと思わせる。話題性を考えてホイットニーのボーカルを使ったが、ほんとはウィンウッドをゲストに呼びたかったんじゃないの……とは邪推だが、このあたりのバランス感覚もこの人らしいところ。もっとも、そうした姿勢が優等生的すぎてダンス・ミュージックらしいいかがわしさや猥雑さに欠ける、という見方もあると思う。 (小野島大)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
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カイゴ ゴールデン・アワー - rockin'on 2020年8月号rockin'on 2020年8月号
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