さりげなくも大きな転換点

ハイム『ウーマン・イン・ミュージック Part III』
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ALBUM
ハイム ウーマン・イン・ミュージック Part III

小股の切れ上がった才気縦横なポップとレトロとモダンの絶妙なバランスで知られるハイム三姉妹が待望のサードで見事なステップ・アップを果たしてくれた。ラディカルな「路線変更」というわけではなく、前作を継承した⑦⑩や軽快なフックは健在だ。しかし心地よいミッド・テンポ曲が大半を占める内容は風にそよぐ草のごとく自由に揺れ姿を変えるアコースティックとエレクトロをフュージョンしたサウンド(サックスを始めホーンが随所にひなびた響きを添えているのも素敵!)と淡く重なる水彩画なボーカル、スカも含むレイドバックしたビート・メイクと自然体でこれまで以上にエアリーな新境地を達成。流麗で無駄のないメロディの数々を軽やかに着こなしている。

転機は約1年前に発表されボーナス・トラックとして収録されているシングル“サマー・ガール”で、一時病に倒れたBFアリエル・レヒトシェイド(ヴァンパイア・ウィークエンド他。前作に引き続き元VWのロスタムと本作に共同プロデュースで参加)に向けてダニエル(Vo/G)が胸のたけを率直に綴ったこの秀逸な曲を契機にサニー&バブリーな表層の下に秘められた様々な思いが浮上した。スマホ時代のメランコリー、孤独な落ち込み、恋愛の逡巡、セックス・ライフ。PTA(ポール・トーマス・アンダーソン)の監督したPVでの脱ぎっぷりに匹敵するパーソナルの開陳は真摯で共感せずにいられないし、こうした「私小説」型ソングライティングが長らく女性アクト批判のタネになってきたのを思うと、本作のメタなタイトルとジャケ(ぶらぶらするソーセージに囲まれた3人:笑)や②⑪でステレオタイプな女性像を問い直す気概も頼もしい。夏を乗り切るのにぴったりな涼やかなアルバムに込められた、いくつもの層を味わって欲しい。 (坂本麻里子)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
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