カオスの最中に未来に抱く甘い希望

ビリー・アイリッシュ『マイ・フューチャー』
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SINGLE
ビリー・アイリッシュ マイ・フューチャー

コロナ禍で外出禁止となり半年が過ぎようかという時。しかもまだ先が見えないカオスの最中に、ビリー・アイリッシュが“my future”というシンプルだが、今だから意味深なタイトルの新曲を発表した。デビュー作では地球温暖化を嘆き、歯科医院で録音したドリルのノイズを鳴らし、目から黒い涙を出して、我々が直面する悪夢を描いたビリー。それでも「大丈夫だよ」と子守り歌を歌うように奏でた彼女が一体未来をどう歌うのか期待したが、なんと「私の未来に恋している」と希望を抱く曲を発表してくれた。

サウンドも、ダークなアルバムから、“everything i wanted”や、“No Time To Die”を通過して徐々にシンプルになり、今作では、ノイズは消え、前半はエレクトリック・ピアノでバラードを歌い、後半はビートとともに軽やかにR&Bやジャズっぽいサウンドを鳴らす。彼らがクラッシックなソングライティングを心得ていることがより明白となるし、新しいサウンドでフィニアスも「成長」が証明できたと語っていた。さらに違うのは、曲のトーンだ。歌詞で、《私は恋している/自分の未来に》と歌うように、緊迫した世の中だからこそ柔らかだし、ポジティブだ。ビリーは、この曲は、コロナで外出禁止になった直後に書きその頃の自分の心境がそのまま曲で表現できた、と言っていたけど、曲の前半では、《私は予定を変えたの》と歌っている。これは、恐らく例えば“idontwannabeyouanymore”で歌っていたような、死にたいと落ち込んだ過去の自分との決別でもあるのだろう。そして、《私は恋している/他の誰とでもなくて/自分をもっと知りたいと思っている》と続く。彼女自身、「外出禁止期間中に本当は友達と会えなくて寂しいと思わなくちゃいけないはずだけど、自分一人の時間を楽しみ、自分をじっくり見つめて成長した」と語っていた。それがそのまま歌詞にもなっている。つまりそれが現在の彼女で、そして《何年か後に会おう》と、未来の自分が楽しみだと言っている。つまりここで彼女は自分の過去、現在、未来を描いているのだ。フィニアスは、「新作では、デビュー作で描いた主人公の物語の続きが書きたい」と言っていたけど、つまりこの曲はビリー自身の成長の物語であり、アルバムで描いた主人公の物語の続きでもあるのだと思う。何より、ビリーは「この曲は今世界で起きていることを考えると新たな意味が生まれた」と語っていたけど、この絶望的な世界で、成長すること、希望を見出すことを甘く奏でたことが、一貫して彼女が偉大なところなのだ。 (中村明美)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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ビリー・アイリッシュ マイ・フューチャー - 『rockin'on』2020年10月号『rockin'on』2020年10月号
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