ポスト・パンクの先頭へ!

アイドルズ『ウルトラ・モノ』
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ALBUM
アイドルズ ウルトラ・モノ

何かとポスト・パンクの動きが話題となる中での決定打と言いたくなる傑作登場。“War”と、まんまなタイトルの1曲目から繰り広げられる引きつったビートのストレートな訴求力と爆発力は、しばらく聴いたことのなかったインパクトと質感を兼ね備え快感そのもの。これほど分厚い音像ではなかったものの、80年代前半には、こうした鋭く研ぎ澄まされた手応えのある音が、次から次へと山ほど出てきたものだが、こうしてエッセンスが受け継がれていることに元気づけられる。

ジョー・タルボットを中心に英ブリストルで結成され『Brutalism』(17年)『Joy As An Act Of Resistance.』(18年)と好アルバムを連発して注目度を地道に上げてきたアイドルズが大きな勝負に出たサードだ。80年代から数多くのニュー・ウェイブ系アーティストのレコーディングに関わってきたニック・ローネイやアダム・グリーンスパンを共同プロデューサーに、断続的にパリなどで制作したアルバムは、冒頭から抑えようのない表現衝動と声明にあふれかえったものになっている。以前からポリティカルなメッセージや意見をもむき出しにしてきたグループだが、状況の変化を受けてさらに歩を進め、より深く、広範囲な探査の成果を音化していく。

ギャング・オブ・フォーやワイアー、バースデイ・パーティの姿が通り過ぎる瞬間もあれば、パンクの現代化した姿がよぎるときもあるのだが、どれも過去のスタイルや理念をトレースするのじゃなく、激しい密度で今日化したことからくる説得力が圧倒的で、一気に引きずり込まれていく。これほど雑念なく叫び上げられるボーカルなんて久しぶりに聴いた気もするし、バンド全体の突破力が生み出すエネルギーと一体となっての無敵感も嬉しくなる。

ウォーレン・エリス(ニック・ケイヴのザ・バッド・シーズの中核メンバー)やデヴィッド・ヨウ(シカゴの伝説的なグループ、ジーザス・リザードのボス)といった歴戦のベテランから、サヴェージズのジェニー・ベスのような人たちがゲスト参加というのも納得のトラックが並ぶ。先行シングル“Grounds”を始め“Mr. Motivator”や現代パンクのあり方を示唆するような“Anxiety”、“Ne Touche Pas Moi”など、とにかく捨て曲なしだが、シングルや楽曲単体というよりも、まず一気にアルバム1枚分が脳内を爆走していく心地好さを味わってほしい。

最後の唐突な終わり方も、あらゆる局面で「切断」が志向された時代の作法に則っていて最高だ。来年のフェスは彼らが目玉。 (大鷹俊一)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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アイドルズ ウルトラ・モノ - 『rockin'on』2020年10月号『rockin'on』2020年10月号
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