2年前に「これっぽっちもグレイトじゃないブリテン」なる挑発的な題のデビュー作でUK平民層ヤングの心象風景を腑分けし、世代の代弁者として注目を集めた英ラッパー。ライムのスキルだけではなく愚者/道化師的な憎めないキャラも立っている人だけに――何せ1枚目のジャケはさらし台に括られ物笑いにされる全裸写真だ――その無軌道なエネルギー&磁力をかつてのジョニー・ロットンに重ねるムラ・マサ、ゴリラズらとのフュージョン・コラボで彼の声を耳にした方もいると思う。
本名をタイトルに冠したセカンドは、社会/時代の観察ではなく視線を自らの内面にシフトしその複雑さを描き出すスタイルになった。前作にも自伝的な要素は多く含まれていたとはいえ、昨年SNS上で袋だたきにあった苦い経験とそれに続く内省も影響したのだろう、ロックダウン下にまとめられた本作には精神面での成長と自覚が記されている。その自覚の支柱にあるのは人間に備わった二面性とその受け入れであり、前半後半7曲ずつの二部構成もその点を反映している。前半はヘヴィなビートと攻撃的なフロウに重点を置いたいわば「悪ガキ篇」で、スケプタやエイサップ・ロッキー(USでのスロウタイの所属レーベル主でもある)らゲストとの掛け合いが楽しめる。続く「良い子篇」はソウル味なループやアコギのヴァース、ピアノを配したオルタナ・ヒップホップ調のジェントルな作風。ジェイムス・ブレイク&マウント・キンビーの参加が話題の⑬はもちろん、本作のメッセージを凝縮したとも言える⑫は耳にこびりつくリフと緻密な感情の塑像で聴かせる素晴らしいアンセムだ。英ヒップホップの個性であるいびつなビート感は薄れたものの、そのぶんより広い層に届くだろう。見事な成長作だ。(坂本麻里子)
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