優れた聴き手は優れた作り手

バイセップ『アイルス』
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ALBUM
バイセップ アイルス

バイセップは北アイルランド出身のダンス・ミュージックのデュオ。2017年にリリースした1stアルバムが英ナショナル・チャートのトップ20にランクされるヒットとなった。本作はそれ以来の2作目だ。

彼らはデビュー前からマニアックなテクノやハウスを紹介するブログを運営し、月間10万PVを記録するなど高い影響力を持っていた。彼らはリスナーとして蓄えた膨大な知識と磨き抜いたセンスでもって音楽制作に挑戦し成功を収めたのだ。つまり彼らは天性の閃きで音を作っていくタイプではなく、他からのさまざまな影響を消化し、知識や経験を積み重ねて自己の世界を作りあげていくタイプの音楽家集団であると考えられる。

そして本作は、まさにそうした彼らの資質にさらに磨きがかかったアルバムだ。90年代レイヴやユーロ・ハウス〜ディスコをベースに、アンビエントやブレイクビーツ、トランス、エレクトロニカなどさまざまなダンス・ミュージックの潮流を巧みに取り入れた、とびきりクールでソフィスティケイトされたダンス・ミュージック。本作はファーストで既に完成されたと思われたそのサウンドをさらに洗練させ、よりリッチでゴージャスながら、メランコリックでミステリアスで奥行きのある世界を作っている。声ネタや音ネタなどサンプリングを多用するがその選択と扱いのセンスが抜群で、イスラエルの歌姫・故オフラ・ハザの天空を舞うようなボーカルがサンプリングされた“Atlas”は最良の成果だろう。

各々の要素をとってみれば、さほど変わったことをやっているわけではない。だがミクスチャーのセンスがよくバランス感覚が巧みだから新鮮だし、聴き手が心地よく聴けるツボを心得ている。前作より確実に深化・進化した傑作だ。(小野島大)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。
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バイセップ アイルス - 『rockin'on』2021年3月号『rockin'on』2021年3月号
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