飛び抜けた才能の輝き

ジュリアン・ベイカー『リトル・オブリヴィオンズ』
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ALBUM
ジュリアン・ベイカー リトル・オブリヴィオンズ

素晴らしい傑作の誕生である。ポジティブで開放的で力強い。25歳になったジュリアン・ベイカーがまたもや大きな成長と進化を遂げた。

素朴で幼さも残した歌声に末恐ろしい大器の誕生を思わせたファースト・アルバム『スプレインド・アンクル』(2015)、サウンドの幅を広げ同時に世界も広がって、苦悶と葛藤を乗り越え力強さを増した大傑作セカンド『ターン・アウト・ザ・ライツ』(2017)に続く、ボーイジーニアスでの活動をはさみ3年4ヶ月ぶりの3作目である。本作も前作に続き彼女自身によるセルフ・プロデュースで、本作ではほぼすべての楽器をジュリアンひとりで演奏している。ボーイジーニアスのフィービー・ブリジャーズとルーシー・ダカスが1曲で参加。録音は2019年12月から2020年1月にかけて行われた。

メロトロンぽい音色のシンセサイザーが鳴り響き、前作までは使っていなかったドラムとベースも加わって、耽美的でゴシックでプログレッシブ・ロックさながらの壮大でドラマティックな音像を紡ぎ上げていくオープナー“ハードライン”からして、これまでのジュリアンの素朴でシンプルな弾き語りのイメージを大きく更新するサウンドで少々面食らったが、インパクトは十分。以降もアコギの弾き語りを基調としながらも、キーボードやエレキ・ギターのエフェクティブなサウンドを加えていく方向性は前作と変わりないが、サウンドは全体に分厚くゴージャスにカラフルになった。さらにドラムレスだった前作と違い、ほぼ全編でドラムスがフィーチュアされたことで、音にメリハリがついて前に出てくるようになった。ひとり多重録音だからとエクスキューズを必要としないほどアレンジも演奏も洗練されて完成度が高く、音が分厚くなっても透明感は残っている。特にギター・アンサンブルの音の重ね方やエフェクトの使い方は天性のセンスを感じさせる。

歌は繊細でありながらも力強く、凜とした意思を感じさせる。初期の素朴さを残しながらもさらに陰影と表現力が増しており訴求力がすごい。楽曲はさらに鋭さを増し、悲しみや孤独を抱きしめた歌であっても、そこから先に進んでいこうとする強い意志を感じる。もともと内省的な表現を身上とする人だが、音楽を通じて聴く者と繋がっていたいという強靱な意志が隅々まで漲っていて、今まさに興隆期にあるアーティストの勢いとエネルギーを感じる。シンガー・ソングライターとしてだけではなくサウンド・メイカーとしての傑出した才能を見せた本作でジュリアンは本格的なブレイクを果たすのではないか。(小野島大)



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ジュリアン・ベイカー リトル・オブリヴィオンズ - 『rockin'on』2021年3月号『rockin'on』2021年3月号
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